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英単語は何語覚えれば足りる?レベル別に必要な語彙数を並べた

「英単語は何語覚えれば足りるのか」に、査読論文が数字で答えを出しています。ニュージーランド・ヴィクトリア大学ウェリントンのPaul Nationが2006年にCanadian Modern Language Reviewへ発表した論文の結論は1文です。書かれた英語を辞書なしで読むには8,000〜9,000の語族、話された英語を聞き取るには6,000〜7,000の語族が必要——これがコーパスを数えて出た目安です。

この記事は、Nation(2006)「How Large a Vocabulary Is Needed for Reading and Listening?」、Nation(2014)「How much input do you need to learn the most frequent 9,000 words?」(Reading in a Foreign Language 26巻2号)、および文部科学省が告示している現行の学習指導要領(外国語)と平成20年7月の中学校学習指導要領解説 外国語編に書かれている語数を、1つの表に並べ直したものです。数字はすべて2026年9月11日に各公式サイト・原論文のPDFを開いて確認しました。足し算をした箇所には「編集部の計算」と明記しています。

目次

英単語は何語覚えれば足りるのか、研究の答えは8,000〜9,000語族

Nation(2006)の結論部分の逐語は次のとおりです。「If we take 98% as the ideal coverage, a 8,000–9,000 word-family vocabulary is needed for dealing with written text, and 6,000–7,000 families for dealing with spoken text.(98%のカバー率を理想とするなら、書かれたテキストを扱うには8,000〜9,000語族、話されたテキストを扱うには6,000〜7,000語族が必要である)」

扱う対象 必要な語彙サイズ(Nation 2006) 前提
書かれた英語(小説・新聞) 8,000〜9,000語族 98%カバー率
話された英語(会話・映画) 6,000〜7,000語族 98%カバー率
英語で大学院に通う非母語話者(著者の未公表調査) 約8,000〜9,000語族 受容語彙の実測
教育を受けた英語母語話者 約20,000語族 Goulden, Nation & Read(1990)ほか

注意すべきは、この8,000〜9,000が「語」ではなく「語族(word family)」で数えられていることです。語族とは、たとえば develop / develops / developed / developing / development / undeveloped をまとめて1つと数える単位です。同じ論文の中でNation自身が、語族の定義をBauer & Nation(1993)の基準に沿って決めたと書いています。

先に断っておくこと

Nationの数字は「英語のテキストの98%を既知語で埋めるには、どれだけの語彙サイズが要るか」を計算したものです。「何語覚えれば英語が話せるか」を測った研究ではありません。話す・書くために自分から出せる語(発信語彙)は、読む・聞くために分かればよい語(受容語彙)より少なくて済むのが通例ですが、その差を数値化した表はこの論文にはありません。

英単語の必要数を決めているのは「98%」という一本の線

なぜ98%なのか。根拠はHu & Nation(2000)の実験です。テキストの中の低頻度語を無意味語に置き換え、既知語の割合(text coverage)を人工的に動かして、内容理解がどこで成立するかを測りました。

既知語の割合 言い換えると 十分な理解に達した人(Hu & Nation 2000)
80% 5語に1語が未知語 1人もいなかった
90% 10語に1語が未知語 ごく少数
95% 20語に1語が未知語 もう少し増えるが、なお少数
100% 未知語なし ほとんどが到達
98%(回帰モデルによる計算値) 50語に1語が未知語 大半が到達すると算出された

つまり「95%分かれば読める」は、この実験では成立していません。95%は20語に1語が未知語という状態で、理解に届いた人は少数派でした。98%という線は、そこから回帰モデルで引き直された値です。

Nationはこの98%についても釘を刺しています。逐語は「even 98% coverage does not make comprehension easy(98%のカバー率でも、理解が楽になるわけではない)」。同じ箇所でKurnia(2003)の結果として、ノンフィクションのテキストでは98%でも十分に理解できた学習者は少なかったことが挙げられています。

英単語の数え方=「語」と「語族」は同じ単位ではない

語彙数の議論がかみ合わなくなる最大の原因が、この単位の違いです。日本の学習指導要領が数えているのは「語」、Nationが数えているのは「語族」で、同じ「◯◯語」と書いてあっても指しているものが違います。

単位 何を1と数えるか 使っている資料
語族(word family) 語幹と、その派生形・屈折形をまとめて1 Nation(2006)、BNCの1,000語族リスト
語(word / 見出し語) 学習指導要領は「指導する語」として数える 文部科学省 学習指導要領
固有名詞(proper nouns) Nationは頻度リストと別枠で集計している Nation(2006)の各表

Nationの各表に「9,000 + proper nouns」という書き方が並ぶのはこのためです。固有名詞は新聞で4.55%〜6.12%、小説で0.50%〜2.12%の出現量を占めており、無視できる量ではありません。ただし固有名詞は文脈から人名・地名だと分かることが多く、Nationはこれを語彙サイズの外に置いて集計しています。

この2つを混ぜたまま「日本人は高校卒業までに5,000語習うのに、なぜ新聞が読めないのか」と問うと、答えは出ません。単位が違ううえに、学習指導要領の語数は「授業で扱う語」であって「定着した語」ではないからです。定着率を全国規模で測った数字を、国は公表していません。

日本の学校で習う英単語は、小学校から高校まで足して4,000〜5,000語

では日本の学校は何語を扱うことになっているのか。現行の学習指導要領(外国語)に書かれている語数を、原文の表記のまま拾います。

学校段階・科目 学習指導要領の表記(逐語) その段階で加わる語数
小学校(第5・6学年 外国語) 「第3学年及び第4学年において第4章外国語活動を履修する際に取り扱った語を含む600〜700語程度の語」 600〜700語
中学校 外国語 「小学校で学習した語に1600〜1800語程度の新語を加えた語」 1,600〜1,800語
高校「英語コミュニケーションⅠ」 「小学校及び中学校で学習した語に400〜600語程度の新語を加えた語」 400〜600語
高校「英語コミュニケーションⅡ」 「英語コミュニケーションⅠ」で示す語に「700〜950語程度の新語を加えた語」 700〜950語
高校「英語コミュニケーションⅢ」 「英語コミュニケーションⅡ」で示す語に「700〜950語程度の新語を加えた語」 700〜950語

ここから積み上げると次のようになります。この足し算は学習指導要領には書かれておらず、編集部が上の表を合計したものです。

到達段階 累計の語数(編集部の計算)
小学校卒業まで 600〜700語
中学校卒業まで 2,200〜2,500語
「英語コミュニケーションⅠ」まで履修 2,600〜3,100語
「英語コミュニケーションⅡ」まで履修 3,300〜4,050語
「英語コミュニケーションⅢ」まで履修 4,000〜5,000語

高校卒業時の4,000〜5,000語は、「英語コミュニケーションⅢ」まで履修した場合の上限側の数字です。Ⅱ・Ⅲは必履修科目ではないため、全員がここに届く設計にはなっていません。学習指導要領が必履修としているのは「英語コミュニケーションⅠ」で、そこまでなら累計2,600〜3,100語です。

なお中学校の語数は、この改訂で大きく動いています。平成20年7月の中学校学習指導要領解説 外国語編には「3学年間に指導する語は,改訂前は『900語程度までの語』としていたが,今回の改訂で『1200語程度の語』とした」と書かれています。900語程度→1,200語程度→1,600〜1,800語程度。中学3年間で扱う英単語は、2回の改訂でおよそ2倍になりました。

英単語は何語で何が読めるか、レベル別に並べる

語数ごとに「何ができるか」を、確認できた資料の数字だけで並べます。左の列は語彙サイズ、右の列は出典です。推定で埋めた行はありません。

語彙サイズ その時点で分かること(出典の記述) 出典
最初の1,000語族+固有名詞 書かれた英語の78〜81%、話された英語の81〜84%をカバー Nation(2006)表14
2,000語族 小説で約88%、新聞で約83%、会話で約89%をカバー Nation(2006)表6・表7・表13
3,000語族+固有名詞 会話・インタビューで96.0〜96.5%をカバー Nation(2006)表13
4,000語族+固有名詞 小説で約94.8%、新聞で約95%をカバー Nation(2006)
6,000〜7,000語族 話された英語で98%に到達 Nation(2006)結論
8,000〜9,000語族 小説・新聞で98%に到達 Nation(2006)結論
約20,000語族 教育を受けた英語母語話者の語彙サイズ Goulden, Nation & Read(1990)

この表でいちばん割のよいのは最初の1,000語族です。ここだけで書かれた英語の約8割、話された英語の8割強が埋まります。一方で残り2割を埋めるために、さらに7,000〜8,000語族が必要になる——これが語彙学習の形です。

Nation(2006)の表14は、この逓減を1枚にまとめています。第2の1,000語族が書かれた英語で8〜9%、第3の1,000語族が3〜5%、第4〜第5の2階層あわせて約3%、第6〜第9の4階層あわせて約2%、第10〜第14の5階層あわせて1%未満。階層を1つ上げても増えるカバー率は1%を切っていくのに、覚える語数は1,000語族ずつ増え続けます。

英単語の必要数は、小説・新聞・映画で同じではない

Nation(2006)は5本の小説、5種の新聞コーパス、2本の映画、2種の話し言葉コーパスを別々に数えています。結論の8,000〜9,000は、その平均ではなく上限側に合わせた値です。

テキスト 2,000語族でのカバー率 98%に届く語彙サイズ
小説『The Turn of the Screw』 91.71% 7,000語族+固有名詞
小説『The Great Gatsby』 87.71% 8,000語族+固有名詞
小説『Lady Chatterley’s Lover』 88.09% 9,000語族+固有名詞で98.22%
新聞コーパス(LOB・FLOB・Brown・Frown・Kolhapur) 81.54〜84.33% 8,000語族+固有名詞で97.28〜98.31%
映画『Shrek』 87.91%(固有名詞込み) 7,000語族+固有名詞で98.08%
話し言葉コーパス(トークバック・インタビュー) 89.41% 6,000語族+固有名詞で98.26%

『The Turn of the Screw』が他の小説より軽いのには理由が書かれています。登場する主要人物が4人しかいないため、固有名詞の数が極端に少ないのだとNationは説明しています。作品ごとの差は、語彙の難しさだけでなく、こうした構造からも生まれます。

話し言葉が書き言葉より少ない語数で済むのは、高頻度語の比重が高いからです。ただしNationは同じ段落で逆向きの注意も書いています。逐語は「we need to consider that text coverage greater than 98% may be needed to cope effectively with the transitory nature of spoken language(話し言葉は消えてしまう性質があるため、98%を超えるカバー率が必要になる可能性を考える必要がある)」。音声は戻って読み返せないぶん、同じ98%でも条件が厳しいということです。

英単語を9,000語族まで積むのに必要な「入力の量」

語数の目標が決まっても、それをどう覚えるかは別の問題です。Nation(2014)は、9,000語族に12回以上出会うために必要な入力量を、コーパスを数えて算出しています。

目標の階層 必要な読書量(延べ語数) 毎分150語で読んだ場合の週あたり時間(原論文の表4)
第2の1,000語族 200,000語 33分(1日あたり7分)
第3の1,000語族 300,000語 50分(1日あたり10分)
第4の1,000語族 500,000語 1時間23分(1日あたり17分)
第5の1,000語族 1,000,000語 2時間47分(1日あたり33分)
第6の1,000語族 1,500,000語 4時間10分(1日あたり50分)
第7の1,000語族 2,000,000語 5時間33分(1日あたり1時間7分)
第8の1,000語族 2,500,000語 6時間57分(1日あたり1時間23分)
第9の1,000語族 3,000,000語 8時間20分(1日あたり1時間40分)

原論文の注記によれば、週あたりの時間は年40週、1日あたりは週5日で割った値です。第9の1,000語族まで到達するには、年間300万語の入力が要る——これがNation(2014)の答えです。1冊12万語の小説に換算すると25冊ぶんにあたると、論文の要旨に書かれています。

音声での入力についても1行だけ数字があります。逐語は「It takes around two hours to watch a typical 10,000 token movie (a rate of around 83 words per minute, or just over half of a reading rate of 150 words per minute).(典型的な1万語規模の映画を観るには約2時間かかる。毎分約83語で、毎分150語の読書速度の半分をわずかに上回る程度である)」

同じ300万語を音声だけで浴びようとすると、毎分83語では約602時間かかります(編集部の割り算。300万÷83÷60)。読書なら毎分150語で約333時間です。Nation(2014)はこの602時間という数字を出していません。上の逐語から編集部が割り算しました。

英単語の目標を「母語話者の20,000語族」に置かない理由

Nation(2006)は論文の冒頭で、語彙目標の決め方を3通り挙げ、そのうち2つを退けています。

目標の決め方 出てくる数字 Nationの評価(論文の記述)
辞書の見出し語数から決める 非常に大きな数字になる 母語話者も全部は知らない。学習目標として現実的でない
母語話者の語彙サイズに合わせる 約20,000語族 「very ambitious goals(きわめて野心的な目標)」
使用目的から逆算する 8,000〜9,000語族/6,000〜7,000語族 この論文が採った方法

20,000語族という数字には、もう1つ有名な目安が添えられています。逐語は「As a rule of thumb, one year of life equals 1,000 word-families up to the age of 20 or so.(経験則として、20歳前後までは1年の生活が1,000語族に相当する)」。生まれてから20年かけて積み上がるのが20,000語族という規模です。

一方でNationは、この領域の研究の質にも触れています。「There is a lack of well-conducted research in this area.(この領域には、きちんと実施された研究が不足している)」という1文がそのすぐ後に置かれています。20,000という数字自体、幅を持って読むべき値だということです。

より現実的な参照点として論文に出てくるのが、英語で大学院の学位課程に在籍している非母語話者の語彙サイズです。著者が当時未公表の調査として挙げている値は、約8,000〜9,000語族。これは小説や新聞を98%で読むのに必要な数字と一致します。ただしこの調査は「Recent unpublished research by the author(著者による最近の未公表研究)」と明記されており、査読を経た数字ではありません。

英単語の必要数で、公表されていない数字

よく探されるのに、公式に数字が出ていないものを、公表されている範囲と合わせて並べます。

数字 公表の状況
英検の級ごとに必要な語彙数 日本英語検定協会の試験内容ページに、級ごとの語彙数の記載はない。
TOEICのスコア別に必要な語彙数 IIBCが公表しているのはスコアの分布と平均で、語彙数の基準は見当たらなかった
CEFRのレベル別に必要な語彙数 CEFRは「何ができるか」で水準を定義しており、語彙数では定義していない
学習指導要領の語数が実際にどれだけ定着しているか 扱う語数は告示されているが、定着率の全国調査は公表されていない
語族と「語」の換算率 したがって4,000〜5,000語と8,000〜9,000語族は直接比べられない
発信語彙(話す・書くために必要な語数) Nation(2006)が測っているのは受容語彙。発信側の必要数は同論文にない

「高校卒業で5,000語、あと4,000語で新聞が読める」という引き算は、単位の違う2つの数字を引いています。換算率を示す一次資料が見当たらないため、この2つは引き算できません。

英単語を何語覚えるか決めるとき、最後に確認しておくこと

この記事で並べた数字を、確認の順番に並べ直します。

  • Nation(2006)の結論は、書き言葉に8,000〜9,000語族、話し言葉に6,000〜7,000語族
  • その前提は「98%カバー率」。95%では十分な理解に届いた人は少数派だった(Hu & Nation 2000)
  • 最初の1,000語族だけで書き言葉の78〜81%、話し言葉の81〜84%が埋まる
  • 階層が上がるほどカバー率の伸びは落ち、第10〜第14の1,000語族は5階層あわせて1%未満
  • 日本の学習指導要領は小学校600〜700語、中学校で1,600〜1,800語を追加、高校のⅠ〜Ⅲまで履修して累計4,000〜5,000語(編集部の計算)
  • ただし必履修は「英語コミュニケーションⅠ」まで=累計2,600〜3,100語
  • 語族と「語」は単位が違うため、5,000語と9,000語族を直接引き算できない
  • 9,000語族に十分な回数出会うには年間300万語の入力が要る(Nation 2014)

目標語数を1つ決めるなら、まず「読むのか、聞くのか」を先に決めるほうが早いということになります。同じ98%でも、書き言葉と話し言葉で2,000語族ぶんの差がつくからです。

この記事の数字の出どころ

語彙サイズとカバー率はNation, I.S.P.(2006)Canadian Modern Language Review 63巻1号59〜82ページ、入力量と時間はNation, I.S.P.(2014)Reading in a Foreign Language 26巻2号1〜16ページ、日本の語数は文部科学省が告示している現行の学習指導要領(外国語・抜粋)および平成20年7月の中学校学習指導要領解説 外国語編、英検の語彙数の有無は日本英語検定協会のサイトから確認しました。いずれも2026年9月11日に開いています。

この記事で使った英単語のデータの一次ソース

すべて2026年9月11日に開いて確認しました。リンクは張っていないため、アドレスをコピーして開いてください。

Nation, I.S.P.(2006)How Large a Vocabulary Is Needed For Reading and Listening?(Canadian Modern Language Review 63(1), 59–82/著者配布のPDF):https://www.lextutor.ca/cover/papers/nation_2006.pdf

Nation, I.S.P.(2014)How much input do you need to learn the most frequent 9,000 words?(Reading in a Foreign Language 26(2), 1–16):https://files.eric.ed.gov/fulltext/EJ1044345.pdf

文部科学省|現行の学習指導要領(外国語・抜粋):https://www.mext.go.jp/content/20251216-mxt_kyoiku01-000046366_9.pdf

文部科学省|中学校学習指導要領解説 外国語編(平成20年7月):https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/05/1234912_010_1.pdf

公益財団法人 日本英語検定協会|過去問・試験内容(級別の必要語彙数の記載がないことの確認):https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/

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