
社内公用語を英語にした日本企業が「何社あるか」を数えた公的な集計は、2026年9月21日の時点で見つからない。国や自治体の統計にも、業界団体の名簿にも、その項目が無い。唯一の全国規模の数字は一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の調査で、回答した528の企業・団体のうち「会議やプレゼン、電子メールで、英語が公用語となっている」と答えたのは3.6%だった。
この記事は、IIBC・厚生労働省・各社が自社サイトやIR資料で公表している数字を並べ直したものである。数字はすべて2026年9月21日に各公表元で確認した。ネット上には「社内公用語を英語にした企業50選」といった一覧が多数あるが、それらの出どころになる公表資料は見当たらない。
社内公用語を英語にした企業は何社か──公的な集計は無い
最初に結論から書く。「社内公用語を英語にした企業の社数」を継続して数えている公表データは存在しない。あるのは、①母集団を限った標本調査の割合、②各社が自分で書いた記述、の2種類だけである。
| データの種類 | 公表元 | 数えている対象 | 社数が分かるか |
|---|---|---|---|
| 標本調査の割合 | IIBC「英語活用実態調査2019」 | 回答した528の企業・団体 | 割合のみ。全国の社数は出ない |
| 標本調査の割合 | IIBC「上場企業における英語活用実態調査2013」 | 回答した304社 | 割合のみ。公用語の設問は無し |
| 各社の自己記述 | 楽天グループ 統合報告書2024 ほか | その1社だけ | 1社ずつしか分からない |
| 官公庁の統計 | 厚生労働省・文部科学省ほか | 該当項目が見当たらない | 分からない |
つまり「何社か」に答えられる公表資料は現時点で無い。以降では、答えの代わりになる割合と、社名まで確認できる自己記述を順に並べる。
社内公用語が英語の企業は3.6%(IIBC・528社の回答)
IIBCの「英語活用実態調査(企業・団体、ビジネスパーソン)2019」は、TOEIC Programの公開テスト団体一括受験申込またはIPテストを利用した2,442の企業・団体を対象に、2018年11月から2019年2月にかけて行われた。回答数は528である。この調査には「英語の使用状況」を1つだけ選ばせる設問があり、選択肢の1つが「会議やプレゼン、電子メールで、英語が公用語となっている」だった。
| 英語の使用状況(最も近いものを1つ) | 現在 | 3年後の見通し |
|---|---|---|
| 会議やプレゼン、電子メールで、英語が公用語となっている | 3.6% | 6.1% |
| 英語は海外との取引がある部署だけで使われる | 61.0% | 38.8% |
| 人材採用時、配属部署の決定や異動時に、一定の英語能力が求められる | 18.0% | 36.7% |
| 仕事上、英語を使用する部署はないが、英語が必要となる局面はある | 10.6% | 11.0% |
| 社内で英語を使うことはない | 5.5% | 2.8% |
| 無回答 | 1.3% | 4.5% |
現在の3.6%に対し、3年後の見通しは6.1%。回答企業が自分で予想した将来値でも1割に届いていない。いっぽうで「人材採用時、配属部署の決定や異動時に、一定の英語能力が求められる」は18.0%から36.7%へと約2倍に伸びる見通しになっている。公用語そのものを切り替えるより、採用と人事の条件に英語を差し込む方向に見通しが寄っている、という読み方ができる。
この調査の母集団は「TOEIC Programを団体で使っている企業・団体」である。英語に元から関心が高い層に寄った標本であり、日本の全企業を代表する数字ではない。IIBC自身も対象をこの範囲と明記している。
社内公用語ではないが、上場企業の75.0%は業務で英語を使う
同じIIBCが2013年1月に実施した「上場企業における英語活用実態調査」は、国内の上場企業全3,254社の人事部門へ質問紙を郵送し、304社から回答を得たものである。こちらには公用語の設問は無いが、英語がどこまで使われているかの分布が載っている。
| 業務での英語の利用(n=304) | 割合 |
|---|---|
| 英語を使用する部署・部門がある | 45.7% |
| 特定部署・部門はないが英語使用はある | 29.3% |
| 英語は一切使用しない | 24.7% |
| 無回答 | 0.3% |
| 上の2つの合計(=業務で英語を使用) | 75.0% |
上場企業の75.0%が業務で英語を使っているのに、公用語にしている企業はごく一部。この落差が、社内公用語という言葉が実態以上に大きく聞こえる理由になっている。なお「英語を使用する部署・部門がある」を業種で割ると、製造業58.2%に対して非製造業30.9%と大きな差が出ている。
社内公用語を英語にしたと自社で公表している楽天グループの数字
社名まで確認できる例として、楽天グループは統合報告書2024に「社内公用語を英語としています」と明記している。同報告書には「2010年の移行開始宣言から5年後の2015年には、全社目標としていたTOEIC平均スコア800点をクリアしました」という記述があり、年表にも2010年の項目として「社内公用語英語化移行開始」が置かれている。同社の採用サイトの英語化のページにも同じ内容が書かれている。
| 楽天グループが公表している数字 | 値 | 時点・出どころ |
|---|---|---|
| 社内公用語の英語化の宣言 | 2010年 | 統合報告書2024の年表 |
| 全社目標のTOEIC平均スコア達成 | 800点/2015年 | 統合報告書2024 |
| 従業員数 | 約29,000人 | 統合報告書2024 |
| エンジニア+研究者コミュニティ | 約6,000人 | 統合報告書2024 |
| 国籍数 | 100超 | 統合報告書2024 |
| 外国籍従業員比率 | 23.6% | 2024年度末/対象は楽天グループ株式会社 |
| 女性比率 | 40.7% | 統合報告書2024 |
補足として、同社のニュースページには、この取り組みを研究したハーバード・ビジネス・スクールのニーリー教授の論文が145の大学で教材として使われているという2018年12月5日付の記述がある。社内公用語の英語化が、経営の事例研究の題材として外部に出ている例である。
社内公用語を「定めていない」と公表している企業もある
逆向きの明記もある。メルカリの採用サイトの言語に関するページには、英文で「当社は1つの公用語を定めておらず、業務では日本語と英語の両方を使う」という趣旨の記述が置かれている。同じページにはメンバーの出身国は50か国超とあり、日本語・英語それぞれの学習プログラムと、通訳・翻訳を担当する社内チーム(Global Operations Team)の存在が説明されている。
| 公表の型 | 社名 | 公表されている内容 |
|---|---|---|
| 公用語は英語と明記 | 楽天グループ | 「社内公用語を英語としています」(統合報告書2024) |
| 公用語を定めないと明記 | メルカリ | 1つの公用語を定めず、日本語と英語の両方を使う(採用サイト) |
| 公用語の語が見当たらない | ファーストリテイリング | 12言語の学習プラットフォームを2023年9月に導入(ダイバーシティのページ) |
| 公用語の語が見当たらない | 本田技研工業 | ESG Report 2025の人材セクションに該当語なし |
「公用語を定めない」という選択も、公用語を英語にするのと同じくらい明確な言語方針である。社内公用語という枠だけで企業を分けると、この型がまるごと抜け落ちる。
社内公用語という言葉が最新の公式資料に出てこない企業
ネット上の一覧で必ず名前が挙がる2社について、現在公開されている資料を編集部が直接検索した。結果は次のとおりである。
| 確認した資料 | 「公用語」の出現 | その資料に書かれていること |
|---|---|---|
| 本田技研工業「Honda ESG Report 2025」人材セクション(PDF) | 0件(「英語」「言語」も0件) | グローバルサクセッションプラン、グローバルコンピテンシーモデル(GCM) |
| ファーストリテイリング「グローバル|ダイバーシティ&インクルージョン」 | 記載なし | 約11万人の従業員、世界3,500以上の店舗、12言語の無料学習プラットフォーム(2023年9月導入) |
これは「英語化をやめた」という意味ではない。あくまで「2026年9月21日に公開されている当該資料の中に、その語が無い」という確認結果である。過去の報道で社内公用語の英語化が伝えられた企業でも、自社の最新の公表物では言語方針を独立した項目として書いていないことがある、という事実だけが読み取れる。ここは推測で埋めず、そのまま残しておく。
各社が現在公開しているPDFまたはWebページを取得し、本文テキストに対して「公用語」「英語」「言語」の3語で全文検索した。検索日は2026年9月21日。件数はその検索結果であり、編集部が数えたものである。
社内公用語の英語化でよく出るTOEIC800点は上位何%か
社内公用語の話には必ずTOEICの目標点が付いてくる。楽天グループが公表している全社目標は800点だった。この800点という水準が、受験者全体の中でどのあたりに位置するのかを、IIBCの「TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2026」(2025年度データ)で確かめる。
| TOEIC L&R 公開テスト Totalスコア分布(2025年度・全体755,473人) | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 895点以上 | 32,348人 | 4.3% |
| 845〜890点 | 37,288人 | 4.9% |
| 795〜840点 | 53,005人 | 7.0% |
| 745〜790点 | 63,348人 | 8.4% |
| 695〜740点 | 72,959人 | 9.7% |
| 645〜690点 | 80,080人 | 10.6% |
| 595〜640点 | 81,764人 | 10.8% |
| 545〜590点 | 78,800人 | 10.4% |
上位3区分を足すと795点以上は122,641人・16.2%になる(編集部が合計したもの)。同じ資料によると、2025年度の公開テスト全体の平均スコアは616点(Listening 337点/Reading 279点)、社会人だけに絞ると308,493人で平均649点、学生は434,399人で平均592点だった。企業・団体が実施するIPテストは全体1,056,506人で平均492点、うち企業・団体分は424,158人で平均538点である。
つまり社内公用語の英語化で語られる800点前後という水準は、公開テスト受験者のおよそ上位16%に当たる。全社の平均をそこへ乗せるという目標設定が、どれだけの幅を動かす話なのかが数字で見える。
社内公用語の議論で企業が求めるTOEICスコア(2013年・304社)
公用語まで踏み込まない企業が、実際にどの程度の英語力を求めているのか。2013年の上場企業調査(回答304社、うち英語使用企業228社)には、期待スコアの数字が残っている。
| 対象 | 企業が期待するTOEICスコア | 備考 |
|---|---|---|
| 国際部門での業務遂行 | 平均750点/700点以上を期待する企業が68.6% | 2013年調査 |
| 全社員 | 平均600点 | 2013年調査 |
| 新入社員 | 平均565点 | 2011年調査では550点 |
| 中途採用社員 | 平均710点 | 2011年調査では600点 |
| 採用応募時の参考スコア | 平均625点 | 2013年調査 |
採用時にTOEICスコアを参考にしている企業は69.3%(「参考にしている」27.6%と「参考にすることがある」41.7%の合計)で、製造業72.3%に対し非製造業64.4%だった。国際部門の750点と全社員の600点の間に150点の開きがあり、全社一律で高い水準を求めていたわけではないことが分かる。
社内公用語の英語化を後押しする教育施策の実施率
IIBCが自ら公表している2019年調査の解説記事には、企業・団体が実施している英語教育施策の割合が載っている。社内公用語まで行くかどうかに関わらず、多くの企業が何らかの施策を回している。
| 実施している英語教育施策(複数回答) | 実施率 |
|---|---|
| 研修機関からの講師派遣による社内研修 | 51.9% |
| 通信教育 | 44.9% |
| eラーニング | 43.6% |
| 海外への研修派遣 | 35.0% |
海外への研修派遣は、海外売上高比率が0%の企業では13.9%、20%以上の企業では46.3%と、3倍以上の開きがある。また同記事では、企業・団体が挙げた英語教育の課題として「モチベーション維持・向上」が66.3%で最多、「レベルのばらつき」41.5%、「業務過多で研修時間がとれない」40.2%と続いている。目標とする英語力の水準は「英語で行われる会議(テレカンを含む)で議論できる」が19.9%で最も多かった。
社内公用語の話の背景にある外国人労働者230万人
社内で英語を使う必要がどこから来るのかを示す公的統計として、厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめがある。令和6年(2024年)10月末時点の集計は次のとおりである。
| 項目 | 令和6年10月末 | 前年からの増減 |
|---|---|---|
| 外国人労働者数 | 2,302,587人 | +253,912人(+12.4%) |
| 外国人を雇用する事業所数 | 342,087所 | +23,312所(+7.3%) |
| 専門的・技術的分野の在留資格 | 718,812人 | +122,908人(+20.6%) |
| 身分に基づく在留資格 | 629,117人 | +13,183人(+2.1%) |
| 技能実習 | 470,725人 | +58,224人(+14.1%) |
| 資格外活動 | 398,167人 | +45,586人(+12.9%) |
国籍別ではベトナムが570,708人で全体の24.8%と最も多く、中国408,805人(17.8%)、フィリピン245,565人(10.7%)が続く。上位3か国はいずれも英語を第一言語とする国ではない。社内公用語を英語にすれば社内の言語問題が片づく、という単純な図式にならない理由が、この内訳に表れている。
社内公用語の数字で読み違えやすい3点
ここまでの数字を並べ直すと、よくある誤読が3つ見えてくる。順に挙げる。
母集団が全企業ではない
3.6%も75.0%も、TOEIC Programの利用企業や上場企業に限った標本調査の値である。日本の企業数は国内全体で数百万に及ぶため、これらの割合を全国に当てはめて社数へ換算することはできない。換算した数字を見かけたら、どの母集団に何を掛けたのかを必ず確かめたい。
公用語と英語使用は別
2013年の調査で業務に英語を使う企業は75.0%だが、2019年の調査で公用語になっているのは3.6%。英語を使うことと、公用語として定めることは別の階層の話である。求人票の「英語使用あり」を公用語化と読むと、実態から大きくずれる。
目標点と現在地の混同
楽天グループの800点は「全社目標を達成した」という公表であって、全社員が常時その水準という意味ではない。2013年調査の750点・600点も同じく期待値であり、実際の平均スコアではない。期待値と実績値を同じ表に並べるときは、列を分けて見る必要がある。
社内公用語で最後に確認しておくこと
- 社内公用語を英語にした企業の社数を数えた公的な集計は、2026年9月21日時点で確認できない
- 全国規模の割合はIIBC調査の3.6%(回答528社、2018年11月〜2019年2月)が唯一確認できた値
- 同調査で回答企業が予想した3年後の見通しでも6.1%にとどまる
- 上場企業の75.0%は業務で英語を使う(2013年・回答304社)。使用と公用語化は別の話
- 楽天グループは統合報告書2024で「社内公用語を英語としています」と明記し、2015年にTOEIC平均800点達成と記載
- メルカリは採用サイトで「1つの公用語を定めない」と明記している
- TOEIC L&R公開テストで795点以上は16.2%(2025年度・編集部が合計)
一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)「英語活用実態調査(企業・団体、ビジネスパーソン)2019」企業・団体調査(対象=TOEIC Programを利用した2,442の企業・団体、調査期間2018年11月〜2019年2月、回答数528)/確認日2026年9月21日
同協会 IIBC NEWSLETTER 掲載「Part1『Ⅰ.企業・団体における英語の位置づけ』の調査結果」(英語教育施策の実施率、課題の割合)/確認日2026年9月21日
同協会「上場企業における英語活用実態調査 2013年」(対象=国内の上場企業全3,254社の人事部門、質問紙郵送法、調査期間2013年1月、回答数304社・うち英語使用企業228社)/確認日2026年9月21日
同協会「TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2026」(2025年度の受験者数と平均スコア)/確認日2026年9月21日
楽天グループ株式会社「統合報告書2024」および同社採用サイト内の英語化に関するページ、同社ニュース2018年12月5日付記事/確認日2026年9月21日
株式会社メルカリ 採用サイト「Language」ページ/確認日2026年9月21日
株式会社ファーストリテイリング「グローバル|ダイバーシティ&インクルージョン」ページ/確認日2026年9月21日
本田技研工業株式会社「Honda ESG Report 2025」人材セクション(PDF)/確認日2026年9月21日
厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」/確認日2026年9月21日
795点以上の合計16.2%・122,641人は、上の分布表の上位3区分を編集部が足し上げたものである。
社内公用語の英語化は、社名で語られることは多いのに、全体像を数えた公表データがほとんど無いテーマである。この記事では、確認が取れた割合と自己記述だけを並べ、取れなかったものは空欄のまま残した。新しい公表資料が出た時点で、この表は順次差し替えていく。
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