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英語のリスニングが聞き取れるようになるまでの時間はどれくらい?

「英語のリスニングが聞き取れるようになるまで、どれくらいの時間がかかるのか」を、実測データで答えている資料があります。IIBCが公表しているTOEIC Programの年次データです。英語を主言語とする国への滞在経験がない人のリスニング平均は280点。6カ月以上1年以下の滞在経験がある人は394点。差は114点で、これが「時間」とリスニングの関係を示す、日本でいちばん人数の多い実測値です。

この記事は、一般財団法人 国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が公表している「TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2026(2025年度 受験者数と平均スコア)」、Interagency Language Roundtable(ILR)が公表しているListeningの能力記述、Paul Nationの査読論文2本(Canadian Modern Language Review 2006年、Reading in a Foreign Language 2014年)を、時間という1つの軸に並べ直したものです。数字はすべて2026年9月11日に各公式サイトと原論文のPDFを開いて確認しました。割り算をした箇所には「編集部の計算」と明記しています。

目次

英語のリスニングが聞き取れるまでの時間、実測に一番近い数字は「滞在6カ月」

IIBCの2026年版データには、TOEIC L&R IPテストを受けた企業・団体の受験者に対して「英語を主言語とする国に滞在したことがありますか」と尋ねたアンケートの集計が載っています。滞在期間別のリスニング平均スコアがそのまま出ています。

英語を主言語とする国への滞在期間 人数 Listening平均 Reading平均 Total平均
滞在経験なし 240,450人 280点 222点 501点
6カ月未満 96,400人 329点 267点 597点
6カ月以上1年以下 12,731人 394点 321点 715点
1年より多く2年以下 6,381人 392点 320点 712点
2年より多く 13,114人 409点 340点 750点

目を引くのは、6カ月以上1年以下(394点)と、1年より多く2年以下(392点)がほぼ同じだという点です。滞在期間を1年から2年へ伸ばしても、この集計ではリスニング平均は2点下がっています。伸びが戻るのは2年を超えた層(409点)からです。

先に断っておくこと

この表はアンケートに答えた受験者を期間別に集計したものであって、同じ人を追跡した記録ではありません。滞在した人としなかった人では、学習量・年齢・職種など他の条件もそろっていません。したがって「6カ月滞在すればリスニングが114点上がる」という読み方はできません。分かるのは、滞在期間という区分でスコアの平均に差が出ている、ということだけです。人数を合計すると369,076人になります(編集部の計算)。

リスニングの「聞き取れる」は7段階で定義されている

時間を測る前に、どこを目標にするかを決める必要があります。米国政府機関が使っているILRのListening尺度は、聞き取りの水準を6つの基本レベル(と、その中間のプラスレベル)で定義しています。

レベル 名称(ILRの表記) 要点(ILRの記述から)
0 No Proficiency 聞き取りとして機能しない
0+ Memorized Proficiency 暗記した短い言い回しなら、ある程度は正確に分かる
1 Elementary Proficiency 食事・宿泊・交通・時間・簡単な道案内など、当面の必需に関わる発話が分かる
2 Limited Working Proficiency 日常的な社交と限られた業務の会話が分かる。事実関係は分かるが行間は分からない
3 General Professional Proficiency 標準的な発音のあらゆる話の要点が分かる。電話・ラジオ放送・報告も追える
4 Advanced Professional Proficiency 職務に必要なあらゆる形式・文体の話を完全に理解できる
5 Functionally Native Proficiency 教養ある母語話者の聞き取りと同等

「聞き取れる」と日本語で言うとき、多くの人が思い浮かべているのはレベル3です。ILRのレベル3の逐語は「Able to understand the essentials of all speech in a standard dialect including technical discussions within a special field.(専門分野の技術的な議論を含め、標準的な方言によるあらゆる発話の要点を理解できる)」。

ただし同じレベル3の記述には、できないことも書かれています。逐語は「Does not understand native speakers if they speak very quickly or use some slang or dialect.(母語話者が非常に速く話したり、俗語や方言を使ったりすると理解できない)」。つまりILRの定義では、レベル3は「早口と方言は落とすが、通常の話は追える」水準です。

リスニングのレベル2と3のあいだに何があるか

ILRの記述を読み比べると、2と3の差がどこにあるかがはっきりします。この差が、学習時間の大半が消えていく場所です。

観点 レベル2(ILRの記述) レベル3(ILRの記述)
話し手 外国人に慣れていない母語話者の、標準的な速さの対面発話 教養ある母語話者どうしの会話も正確に追える
音声の経路 対面が前提。屋外スピーカーなど条件が悪いと単語が断片的にしか分からない それなりに明瞭な電話、ラジオ放送、通信社の記事に近いニュースも分かる
話題 日常の出来事・家族の近況・よく知られた時事・定型的な事務 一般的な話題と専門分野。仮定の話や、根拠づけられた意見も分かる
理解の深さ 事実は分かる。行間や、その先は分からない 含意が分かる。感情の色合いも多くの場合は捉えられる
語彙 ― 言い換えや説明を求めることがめったにない程度に広い

レベル2の逐語にある「Able to understand facts; i.e., the lines but not between or beyond the lines.(事実は理解できる。すなわち、行は分かるが行間やその先は分からない)」という一文が、この段差をよく表しています。レベル2からレベル3への移動は、聞き取れる音の量ではなく、聞き取れる場面の幅が変わることだと定義されています。

なおILRは、どのレベルに何時間で到達するかという時間の表を、この能力記述の中では示していません。レベルは「authorized language examination(認定された言語試験)」で判定されると書かれているだけです。

リスニングに必要な語彙は6,000〜7,000語族という研究の目安

時間の前に、量の目安を1つ挟みます。Paul Nationが2006年にCanadian Modern Language Reviewへ発表した論文は、話された英語を理解するのに必要な語彙サイズを算出しています。

コーパス 2,000語族でのカバー率 98%に届く語彙サイズ
トークバック番組・インタビュー 89.41% 6,000語族+固有名詞で98.26%
日常会話 89.35% 7,000語族+固有名詞で97.95%
映画『Shrek』 87.91%(固有名詞込み) 7,000語族+固有名詞で98.08%

結論部分の逐語は「a 8,000–9,000 word-family vocabulary is needed for dealing with written text, and 6,000–7,000 families for dealing with spoken text(書かれたテキストを扱うには8,000〜9,000語族、話されたテキストを扱うには6,000〜7,000語族が必要である)」。話し言葉のほうが2,000語族ぶん少なくて済むのは、高頻度語の比重が高いからだと論文は説明しています。

ただし同じ論文は、この「少なくて済む」に逆向きの但し書きを付けています。逐語は「we need to consider that text coverage greater than 98% may be needed to cope effectively with the transitory nature of spoken language(話し言葉は消えていく性質を持つため、98%を超えるカバー率が必要になる可能性を考えなければならない)」。読む文字は戻れますが、聞いた音は戻れません。その差のぶん、同じ98%でも条件は厳しいということです。

リスニングの入力を時間に直すと、1分あたり83語しか進まない

語数の目標を時間に変換できる数字が、Nationの2014年の論文(Reading in a Foreign Language 26巻2号)に1行だけ出てきます。逐語は「It takes around two hours to watch a typical 10,000 token movie (a rate of around 83 words per minute, or just over half of a reading rate of 150 words per minute).(典型的な1万語規模の映画を観るには約2時間かかる。毎分約83語で、毎分150語の読書速度の半分をわずかに上回る程度である)」

同じ論文は、最も頻度の高い9,000語族に十分な回数出会うために必要な入力量を300万語と算出しています。この2つを掛け合わせると、音声だけで同じ量を浴びる場合の時間が出ます。300万語÷1万語=映画300本。1本2時間として600時間です(編集部の計算。Nation(2014)はこの600時間という数字を出していません)。

1日に英語音声を聞く時間 600時間に届くまでの日数(編集部の計算) 年数(365日で割った値)
15分 2,400日 約6.6年
30分 1,200日 約3.3年
1時間 600日 約1.6年
2時間 300日 約0.8年
3時間 200日 約0.5年

この表はNationの2つの数字を編集部が割ったもので、論文にも公的資料にも載っていません。前提は「ちょうどよい難度の音声を、集中して聞き続けた場合」です。Nation(2014)自身が、聞き取りは読書より単位時間あたりの入力量が少ない(less intensive input)と書いています。

読書と比べると差がはっきりします。同じ300万語を毎分150語で読む場合、Nation(2014)の表4は年40週・週5日で「週8時間20分、1日1時間40分」という配分を示しています。年間の合計はおよそ333時間です(編集部の計算)。同じ語数を耳から入れると、その約1.8倍の時間がかかることになります。

日本人のリスニング平均点は、実はリーディングより58点高い

ここから先は、日本で実際に測られている数字です。IIBCが公表している2025年度のTOEIC L&R公開テストの平均スコアを、過去3年ぶん並べます。

年度 受験者数 Listening平均 Reading平均 Total平均
2023年度 746,178人 335点 278点 612点
2024年度 735,425人 336点 279点 615点
2025年度 755,473人 337点 279点 616点

3年間どの年度も、リスニングのほうがリーディングより高く出ています。2025年度の差は58点です。「日本人はリスニングが苦手」という言い方は、少なくともTOEIC L&Rの平均スコアでは裏づけが取れません。リスニングとリーディングはどちらも5〜495点の同じ尺度です。

IPテスト(企業・団体や学校が団体で実施する形式)でも同じ向きです。2025年度のIPテストの平均はリスニング276点・リーディング216点・トータル492点で、受験者数は1,056,506人。公開テストとIPテストを合わせると、2025年度だけで181万人ぶんのリスニング平均が公表されていることになります(編集部の計算)。

リスニングの試験時間そのものは45分しかない

測る側の時間も確認しておきます。IIBCが公表しているTOEIC L&Rのテスト形式は次のとおりです。

セクション テスト時間/問題数 スコアの範囲
リスニング 約45分/100問 5〜495点
リーディング 75分/100問 5〜495点
トータル 約2時間/200問 10〜990点(5点刻み)

IIBCは注記で、TOEIC L&R IPテスト(オンライン)のテスト時間は約1時間・問題数は90問だとしています。約45分で100問。1問あたりおよそ27秒です(編集部の計算)。この45分が、上で見た600時間という入力量の到達度を測るための窓になります。

別のテストの数字も同じページに載っています。TOEIC Bridge L&Rのリスニングは約25分/50問で、スコアは15〜50点。基礎からの学習者向けに設計された形式です。

リスニングの平均点は、社会人と学生でどれだけ違うか

同じ2025年度の公開テストを、受験者の属性で割った数字も公表されています。

区分 人数 Listening平均 Reading平均 Total平均
全体 755,473人 337点 279点 616点
社会人 308,493人 353点 296点 649点
学生 434,399人 325点 267点 592点

社会人と学生のリスニング平均の差は28点。一方、上で見た「滞在経験なし」と「6カ月以上1年以下」の差は114点でした。公表されている区分の中では、滞在期間による差のほうが4倍ほど大きく出ています。

IPテストを企業・団体と学校で割ると、リスニング平均は企業・団体が299点(424,158人)、学校が261点(632,348人)です。ただしこれらはすべて別々の集団の平均であり、同じ人が時間をかけて動いた記録ではありません。時間とスコアの因果を示す追跡調査を、IIBCはこの資料では公表していません。

リスニングの時間で、公表されていない数字

よく探されるのに、公式に数字が出ていないものを、公表されている範囲と合わせて並べます。

数字 公表の状況
米国務省FSIの言語別の研修時間 米国務省FSIの公式ページで確かめる
ILRの各レベルに到達するまでの時間 ILRのListening能力記述には、レベルと時間を対応させた記載がない
TOEICのスコアとILRレベルの対応表 IIBCの公表資料にもILRの記述にも対応表はない
英検の級別のリスニング試験時間 日本英語検定協会の各級の試験内容ページで確かめる
「何時間でリスニングが聞き取れるようになるか」の直接の研究 時間を独立変数にして聞き取り到達度を測った一次資料は見当たらない
日本人の英語音声への年間接触時間 全国規模で測った公表値はない

「リスニングは◯◯時間で聞き取れるようになる」と1つの数字で言い切っている説明は、公表資料には対応する根拠が見当たりません。この記事で出せたのは、語彙量から逆算した入力時間(編集部の計算)と、滞在期間別の平均スコア(IIBCの実測)の2つだけです。

英語のリスニングの時間を考えるとき、最後に確認しておくこと

この記事で並べた数字を、確認の順番に並べ直します。

  • IIBCの2025年度データで、滞在経験なしのリスニング平均は280点、6カ月以上1年以下は394点(IPテスト企業・団体)
  • 1年〜2年の層は392点で、6カ月〜1年の層とほぼ同じ。伸びは直線ではない
  • 目標水準の定義はILRのListening尺度。日本語の「聞き取れる」に近いのはレベル3
  • レベル3でも、早口の母語話者・俗語・方言は理解できないとILRが明記している
  • 話された英語を98%カバーするのに必要な語彙は6,000〜7,000語族(Nation 2006)
  • 映画の発話速度は毎分約83語。9,000語族ぶんの入力300万語を音声で浴びると約600時間(編集部の計算)
  • 同じ300万語を毎分150語で読むと約333時間。音声はおよそ1.8倍の時間がかかる(編集部の計算)
  • 2025年度のTOEIC L&R公開テストの平均はリスニング337点・リーディング279点で、リスニングのほうが58点高い

時間を目標に使うなら、必要なのは「何時間で聞き取れるか」よりも、「1日何分の英語音声を、何年続けるか」という分解のほうです。600時間という総量は、1日30分なら約3.3年、1日2時間なら約0.8年に変わります。変わるのは総量ではなく配分です。

この記事の数字の出どころ

受験者数・平均スコア・滞在期間別の集計・テスト形式はIIBCの「TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2026(2025年度 受験者数と平均スコア)」、聞き取りの水準の定義はInteragency Language Roundtableの「Language Skill Level Descriptions – Listening」、語彙サイズはNation, I.S.P.(2006)Canadian Modern Language Review 63巻1号、入力量と発話速度はNation, I.S.P.(2014)Reading in a Foreign Language 26巻2号から採りました。いずれも2026年9月11日に開いて確認しています。

この記事で使ったリスニングのデータの一次ソース

すべて2026年9月11日に開いて確認しました。リンクは張っていないため、アドレスをコピーして開いてください。

IIBC|TOEIC Program DATA & ANALYSIS 2026(2025年度 受験者数と平均スコア):https://www.iibc-global.org/hubfs/library/default/toeic/official_data/pdf/program-data-analysis-2026.pdf

IIBC|TOEIC Listening & Reading Test 公開テスト 平均スコア・スコア分布 一覧:https://www.iibc-global.org/toeic/official_data.html

Interagency Language Roundtable|Language Skill Level Descriptions – Listening:https://www.govtilr.org/Skills/ILRscale3.htm

Nation, I.S.P.(2006)How Large a Vocabulary Is Needed For Reading and Listening?(Canadian Modern Language Review 63(1), 59–82/著者配布のPDF):https://www.lextutor.ca/cover/papers/nation_2006.pdf

Nation, I.S.P.(2014)How much input do you need to learn the most frequent 9,000 words?(Reading in a Foreign Language 26(2), 1–16):https://files.eric.ed.gov/fulltext/EJ1044345.pdf

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