翻訳の年収で、業界団体の調査がいちばん多いと報告している層は「300万〜400万円未満」です。日本翻訳連盟(JTF)が2020年度と2022年度に行った2回の業界調査は、どちらも翻訳者の年収の最頻値として同じ「300万〜400万円未満」を挙げています。単価のほうは、同じ団体が英日で1ワード26〜35円、日英で1文字20〜30円という分野別の目安を公表しています。
この記事は、日本翻訳連盟が公表している翻訳料金の目安と業界調査の集計、および国税庁の民間給与実態統計調査を、そのまま並べ直したものです。数字は2026年9月16日に各公式サイトで確認しました。
翻訳の年収は「300万〜400万円未満」が最も多い層だった
日本翻訳連盟は2004年度から業界調査を続けており、その一部をJTFジャーナルWEB版で公開しています。年収について公開されている記述は、次の2回分です。
| 調査 | 実施年度 | 翻訳者の回答数 | 年収で最も多かった層 |
|---|---|---|---|
| 第6回 翻訳・通訳業界調査 | 2020年度 | 翻訳者735名(うち専業翻訳者262名を集計) | 300万〜400万円 |
| 第7回 翻訳・通訳業界調査 | 2022年度 | 翻訳者812名 | 300万〜400万円未満 |
2年あいだが空いた2回の調査で、最頻値が同じ層に落ちています。第7回の報告では、この点について「前回2020年と同様」と書かれています。回答者の数は735名から812名へ増えています。
第6回の集計では、専業翻訳者262名のうち200万〜600万円の範囲に65%が入り、1000万円以上は4〜5%でした。つまり回答者の3人に2人が200万円台から500万円台のどこかに収まっており、1000万円を超える層は20人に1人程度という分布です。
翻訳の年収分布は、専業と兼業で母集団が違う
分布の数字を読むときに、まず押さえておきたいのが母集団です。第6回調査の回答者の内訳は公開されています。
| 区分 | 第6回(2020年度)の実数 |
|---|---|
| 回答した翻訳・通訳企業 | 228社 |
| 回答した個人(翻訳者・通訳者) | 752名 |
| うち翻訳者 | 735名 |
| うち通訳者 | 140名 |
| うち翻訳と通訳の兼業 | 125名 |
| 年収分布の集計対象となった専業翻訳者 | 262名 |
| 男女比 | 女性:男性=7:3 |
年収の分布として公開されている「300万〜400万円が最多」は、735名全員ではなく専業翻訳者262名の集計です。兼業者や社内翻訳者を含めた数字ではありません。第7回でも、女性の回答者が約7割を占めていること、経験20年以上の層で800万円以上の割合が高くなる傾向があることが報告されています。
年代についても記述があります。第7回の報告では、20代は年収400万円未満が多数を占め、翻訳者の女性は40〜50代の割合が高く、男性は60代以上から割合が高くなると書かれています。年齢と経験年数の重みが大きい分布だということが、この2つの記述から読めます。
翻訳の単価は、日本翻訳連盟が分野別の目安を公表している
単価には、団体が出している「目安」と、実際に個人が受け取っている「実勢」の2つがあります。まず目安のほうです。日本翻訳連盟は加盟企業の翻訳料金として、分野別の表を公開しています。いずれも税別で、英日は英文1ワードあたり、日英は和文原稿1文字あたりです。
| 分野 | 英日翻訳(英文1ワードあたり) | 日英翻訳(和文1文字あたり) |
|---|---|---|
| コンピューターマニュアル | 28円 | 20円 |
| 一般科学・工業技術 | 28円 | 21円 |
| 金融 | 30円 | 25円 |
| 経営管理・財務・契約書 | 30円 | 25円 |
| 医学・医療・薬学 | 35円 | 30円 |
| 特許明細書 | 26円 | 30円 |
英日でいちばん高いのは医学・医療・薬学の35円、いちばん低いのは特許明細書の26円で、差は9円です。日英では医学・医療・薬学と特許明細書がどちらも30円で並び、コンピューターマニュアルの20円との差は10円になります。
日本翻訳連盟はこの表を「一般的な実例の平均値」と説明しており、実際の料金は専門性、難易度、翻訳量、納期、データフォーマット、品質レベルによって大きく変わると明記しています。この数字は翻訳を依頼する側が払う料金の目安であって、翻訳者が受け取る額ではありません。両者を混ぜて読むと、金額の桁が合わなくなります。
翻訳の単価は、発注元が翻訳会社か直接クライアントかで変わる
個人の翻訳者が実際に受け取っている単価も、第6回調査で集計されています。こちらは発注元の種類で分けて報告されています。
| 方向 | 発注元 | 公表されている単価の帯 |
|---|---|---|
| 英日翻訳 | 翻訳会社から | 1ワードあたり7〜15円 |
| 英日翻訳 | ソースクライアント(直接の発注元)から | 1ワードあたり11〜23円 |
| 日英翻訳 | 翻訳会社から | 1文字あたり5〜7円が44% |
英日翻訳では、翻訳会社経由の7〜15円に対して、直接の発注元からは11〜23円と帯そのものが上にずれています。下限で4円、上限で8円の差です。日英翻訳については、翻訳会社からの単価として5〜7円/文字と回答した人が44%を占めたと報告されています。
この2つの数字を、前のH2で見た日本翻訳連盟の目安(英日28〜35円/ワード、日英20〜30円/文字)と並べると、目安の表が示しているのは発注者が翻訳会社に払う額であって、翻訳者の手取り単価とは別の水準だということが数字として確認できます。
翻訳の単価は数え方の単位そのものが方向によって違う
見落としやすいのが単位です。日本翻訳連盟の表記では、英日翻訳は「英文1ワードあたり」、日英翻訳は「和文原稿1文字あたり」で計算されます。原文側を数える方式が共通しているという点は同じですが、数える対象が語と文字で異なります。
- 英日翻訳=原文である英語の1ワードに単価を掛ける
- 日英翻訳=原文である日本語の1文字に単価を掛ける
- どちらも訳し終わった後の分量ではなく、依頼時点の原文の分量で確定する
同じ「20円」でも、1ワード20円と1文字20円では対象の粒度が違うため、金額の意味がまったく変わります。単価の数字を比べるときは、円の前ではなく後ろについている単位を先に見る必要があります。
翻訳の業界調査は2004年度から8回行われている
この記事が使っている調査そのものの一覧も、日本翻訳連盟が公開しています。名称が途中で変わっている点も含めて、そのまま写します。
| 回 | 年度 | 報告書の名称 |
|---|---|---|
| 第8回 | 2024年度 | 翻訳通訳業界調査レポート |
| 第7回 | 2022年度 | 翻訳通訳白書 |
| 第6回 | 2020年度 | 翻訳通訳白書 |
| 第5回 | 2017年度 | 翻訳白書 |
| 第4回 | 2013年度 | 翻訳白書 |
| 第3回 | 2008年度 | 翻訳白書 |
| 第2回 | 2005年度 | 翻訳白書 |
| 第1回 | 2004年度 | 翻訳白書 |
第5回までが「翻訳白書」、第6回と第7回が「翻訳通訳白書」、第8回が「翻訳通訳業界調査レポート」という名称です。調査は毎年ではなく、2〜4年おきに実施されています。報告書の完全版は会員向けのPDFとして配布されており、一般に公開されているのはJTFジャーナルWEB版に載った分析記事の範囲です。
翻訳と通訳では、年収分布の形そのものが別物になる
同じ調査で、通訳の数字も集計されています。翻訳と並べると形の違いがはっきりします。
| 職種 | 第7回(2022年度)で報告された年収の山 |
|---|---|
| 翻訳者 | 「300万〜400万円未満」に1つの山 |
| 通訳者 | 「400万〜500万円未満」と「1000万〜1500万円未満」の2つの山(二峰性) |
通訳の年収は1つの山ではなく2つの山を持つ形だと報告されています。通訳の料金単価については第6回で、1日あたり2万〜4万円と回答した人が34.1%で最も多かったと公開されています。通訳は稼働日数で総額が決まるため、年収の形が翻訳とそろわないことが数字に反映されています。
なお第6回の調査時期は新型コロナウイルスの影響下にあり、収入が40%以上減ったと答えた通訳者が約40%に達したことも報告されています。通訳の数字を時系列で比べる場合、この年の落ち込みを織り込まずに並べると、傾向を読み違えます。
翻訳の現場で機械翻訳とポストエディットがどれだけ使われているか
単価の水準を左右する要素として、機械翻訳の利用率も集計されています。第6回調査で公開されている数字です。
| 区分 | 機械翻訳を使っている割合 |
|---|---|
| 回答者全体 | 19.3% |
| 社内翻訳者 | 36.8% |
| 専業翻訳者(フリーランス) | 12.6% |
| ポストエディット(機械翻訳の後編集)の受託 | 25〜30% |
社内翻訳者の36.8%に対し、専業翻訳者は12.6%と、3倍近い開きがあります。一方で、機械翻訳の出力を直すポストエディットを受託している割合は25〜30%で、自分では機械翻訳を使わないが後編集の仕事は受けている、という層が一定数いることが読み取れます。
翻訳の年収を、給与所得者全体の平均と並べてみる
「300万〜400万円」という数字が高いのか低いのかは、単独では判断できません。国税庁の民間給与実態統計調査(令和6年分、2025年9月公表)と並べます。
| 項目 | 公表されている数字 |
|---|---|
| 1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与 | 478万円(前年比3.9%増、4年連続の増加) |
| 同・男性 | 587万円 |
| 同・女性 | 333万円 |
| 同・正社員 | 545万円 |
| 同・正社員以外 | 206万円 |
| 1年を通じて勤務した給与所得者数 | 5,137万人 |
| 12月31日現在の給与所得者数 | 6,077万人 |
| 翻訳者の年収の最頻値(JTF第7回) | 300万〜400万円未満 |
給与所得者全体の平均478万円に対して、翻訳者の最頻値は300万〜400万円未満の帯にあります。ただし、この2つは性質が違う数字です。国税庁のほうは源泉徴収票をもとにした給与の平均値で、翻訳の調査のほうは自己申告による年収の最頻値です。平均と最頻値、給与と年収という2つのずれがあるため、差を引き算して語ることはできません。
翻訳の単価から必要な処理量を逆算すると何が見えるか
ここだけは公表値ではなく、編集部が公表されている単価を使って組み立てた計算です。前提を先に書きます。英日翻訳で、翻訳会社からの単価の帯(7〜15円/ワード)の中央あたりを10円と置き、月20日稼働、年12か月として、年収の目安に届くために必要な処理ワード数を出したものです。
| 年間の売上(円) | 単価10円/ワードで必要な年間ワード数 | 月20日稼働なら1日あたり |
|---|---|---|
| 300万円 | 30万ワード | 1,250ワード |
| 400万円 | 40万ワード | 約1,667ワード |
| 600万円 | 60万ワード | 2,500ワード |
| 1,000万円 | 100万ワード | 約4,167ワード |
この表は編集部の割り算であって、調査で公表された数字ではありません。実際には単価が分野で変わり、稼働日数も案件の途切れ方で変わります。それでも、単価と年収の2つの公表値のあいだに「1日あたり何ワード処理するか」という量の軸が挟まっていることは、この計算からは読み取れます。単価だけを見ても年収は決まりません。
翻訳の年収と単価で、公表されていない数字
よく探されるのに、公式に数字が出ていないものを、公表されている範囲と合わせて並べます。
| 数字 | 公表の状況 |
|---|---|
| 翻訳者の平均年収(1つの代表値) | 日本翻訳連盟が公開しているのは分布の最頻値と帯であり、平均値そのものは一般公開の記事に出ていない |
| 年収の階級ごとの構成比(何%が何万円台か) | 完全版の翻訳通訳白書は会員向け配布で、階級別の実数は一般公開されていない |
| 第8回(2024年度)調査の年収・単価 | 2026年9月16日時点で、レポートは会員ページからの入手となっており、一般公開の記事に数字が出ていない |
| 厚生労働省の統計による翻訳者の賃金 | 賃金構造基本統計調査の職種別集計に、翻訳者を単独で切り出した区分はない |
| 翻訳業の市場規模(金額) | 一般公開されている範囲に金額の記載はない |
| 出版翻訳・映像翻訳の印税率や分あたり単価 | 業界団体が分野別に一般公開している表はない |
「翻訳者の平均年収は◯◯万円」と1つの数字で書いている記事は、公表されていない代表値を作っている可能性があります。公表されているのは、最頻値が300万〜400万円の帯にあること、200万〜600万円に65%が入ること、1000万円以上が4〜5%であることまでです。
翻訳の年収と単価で最後に確認しておくこと
数字を自分で扱うときに、取り違えやすい点を並べます。
- 単価の表が「発注者が払う額」なのか「翻訳者が受け取る額」なのかを先に確認する
- 円の後ろの単位を見る(1ワードあたりか、1文字あたりか)
- 年収の数字が平均値か最頻値かを確認する(公表されているのは最頻値)
- 集計対象が専業だけか、兼業・社内翻訳者を含むかを確認する
- 調査年を確認する(第6回は2020年度、第7回は2022年度で、実施のあいだは2年)
- 通訳の数字と翻訳の数字を混ぜない(分布の形が違う)
- 2020年度の通訳の数字は、収入が40%以上減った回答者が約40%という条件下のもの
- 単価と年収のあいだには、1日あたりの処理量という別の変数が挟まっている
同じ「300万〜400万円」という数字でも、専業翻訳者262名の集計か、翻訳者812名の集計かで、意味する範囲が変わります。数字を引用するときは、回答者の数と区分をセットで持っておくと、比較の誤りが減ります。
分野別の翻訳料金の目安は日本翻訳連盟の「翻訳料金の目安」ページ、年収分布・受注単価・機械翻訳の利用率はJTFジャーナルWEB版に掲載された第6回および第7回「翻訳・通訳業界調査」の分析記事、給与所得者の平均給与は国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査結果について」(令和7年9月公表)に掲載されている数字です。すべて2026年9月16日に各公式サイトで確認しました。必要ワード数の逆算表だけは、公表された単価を使った編集部の計算で、前提をその場に明記しています。
この記事で使った翻訳の一次ソース
すべて2026年9月16日に開いて確認しました。リンクは張らず、URLをそのまま記載します。
日本翻訳連盟|翻訳料金の目安(加盟企業の分野別翻訳料金)
https://www.jtf.jp/tips/price
日本翻訳連盟|翻訳業界調査結果(第1回2004年度〜第8回2024年度の一覧)
https://www.jtf.jp/tips/report
JTFジャーナル WEB版|[イベント報告]第6回翻訳・通訳業界調査報告(2021年8月2日)
https://webjournal.jtf.jp/2021/08/02/3693/
JTFジャーナル WEB版|第7回「翻訳・通訳業界調査」クロス集計等の手法を用いた分析結果報告〈個人の部〉(2023年9月12日)
https://webjournal.jtf.jp/2023/09/12/7498/
JTFジャーナル WEB版|第7回「翻訳・通訳業界調査」クロス集計等の手法を用いた分析結果報告〈法人の部〉(2023年8月22日)
https://webjournal.jtf.jp/2023/08/22/7370/
国税庁|令和6年分民間給与実態統計調査結果について(令和7年9月、国税庁企画課データ活用推進室)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/minkan_2025/pdf/01.pdf

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