「英語をマスターするのに何時間かかるのか」を、感覚ではなく公表された数字で答えられる資料が1つだけあります。米国務省の外交官養成機関FSI(Foreign Service Institute)が出している語学研修の所要週数です。FSIの表では、日本語は最も難しい「カテゴリIV」に分類され、必要な授業時間は88週・2,200時間と明記されています。英語と日本語の距離が、この数字そのものです。
この記事は、米国務省FSIが公表している言語カテゴリ別の研修期間、Interagency Language Roundtable(ILR)が公表している言語能力の尺度、日本の学校教育法施行規則の別表および文部科学省が公表している高等学校の標準単位数・令和6年度「英語教育実施状況調査」を、時間という1つの単位に揃えて並べ直したものです。数字はすべて2026年9月11日に各公式サイトで確認しました。足し算・割り算をした箇所には「編集部の計算」と明記しています。
英語をマスターする時間の答えは、米国務省の2,200時間
米国務省FSIの「Foreign Language Training」ページは、言語を4つのカテゴリに分け、それぞれ何週間・何授業時間で職務に使える水準に届くかを公表しています。逐語は「Category IV Languages: 88 weeks (2200 class hours)」です。
| カテゴリ | FSIの表記 | 週数 | 授業時間 |
|---|---|---|---|
| Category I | Languages close to English.(英語に近い言語) | 24〜30週 | 552〜690時間 |
| Category II | ― | 約36週 | 828時間 |
| Category III | “Hard languages”(難しい言語) | 約44週 | 1,012時間 |
| Category IV | “Super-hard languages”(きわめて難しい言語) | 88週 | 2,200時間 |
カテゴリIVに入っているのは、アラビア語・広東語・北京語・日本語・韓国語の5つだけです。FSIはこのカテゴリを「Languages which are exceptionally difficult for native English speakers.(英語を母語とする人にとって例外的に難しい言語)」と説明しています。
FSIの数字は「英語を母語とする人が、他の言語を学ぶのにかかる時間」です。日本語話者が英語を学ぶ時間を直接示した表ではありません。2,200時間を「日本人が英語に必要な時間」として読むには、言語間の距離が双方向で同じだという前提を置くことになります。FSIはその前提について何も書いていません。この記事では、その前提を置いた場合の計算には毎回「編集部の計算」と付けて区別します。
英語と日本語の距離を、米国務省は4段階で分けている
FSIのカテゴリ分けで目を引くのは、いちばん軽い言語といちばん重い言語の差です。カテゴリIの最短24週(552時間)に対して、カテゴリIVは88週(2,200時間)。同じ到達水準までの授業時間が、ちょうど4倍ひらいています。
| カテゴリ | 含まれる言語(FSIの記載) | カテゴリIとの倍率(編集部の計算) |
|---|---|---|
| I | デンマーク語・オランダ語・フランス語・イタリア語・ノルウェー語・ポルトガル語・ルーマニア語・スペイン語・スウェーデン語 | 1.0倍(552時間を1とする) |
| II | ドイツ語・ハイチクレオール語・インドネシア語・マレー語・スワヒリ語 | 約1.5倍 |
| III | ロシア語・ヒンディー語・ヘブライ語・ギリシャ語・タイ語・ベトナム語ほか(FSIは「この一覧は網羅的ではない」と注記) | 約1.8倍 |
| IV | アラビア語・中国語(広東語)・中国語(北京語)・日本語・韓国語 | 約4.0倍 |
FSIは週数に幅を持たせている言語も個別に書いています。カテゴリIの中でもフランス語とスペイン語だけが30週で、残りの7言語は24週です。つまり「英語に近い言語」の中にも6週ぶん、時間にして138時間の差がある、というのがFSIの見方です。
カテゴリIIIは言語数がいちばん多く、FSIのページには38言語が並んでいます。ただしその先頭に「This list is not exhaustive.(この一覧は網羅的ではない)」という但し書きがあり、世界のすべての言語が分類されているわけではありません。
英語の学習時間2,200時間は「週23時間の授業+週17時間の自習」でできている
FSIが公表しているのは週数と授業時間だけではありません。1週間の中身も1行で書かれています。逐語は「A typical week is 23 hours per week in class and 17 hours of self-study.(典型的な1週間は、授業が週23時間、自習が17時間)」です。
| 項目 | FSIの公表値 | 88週ぶんに換算(編集部の計算) |
|---|---|---|
| 授業 | 週23時間 | 2,024時間 |
| 自習 | 週17時間 | 1,496時間 |
| 合計 | 週40時間 | 3,520時間 |
| FSIが表に載せている授業時間 | ― | 2,200時間 |
週23時間×88週は2,024時間で、FSIが表に書いている2,200時間とは176時間ずれます。FSI自身が「A typical week(典型的な1週間)」という書き方をしているとおり、週23時間はあくまで代表値で、2,200時間のほうが公式の合計値です。この記事では2,200時間を答えとして扱い、週の内訳は構造を見るための材料として扱います。
見落とされやすいのは自習の17時間のほうです。FSIの研修は「授業に出ていれば終わり」の設計ではなく、授業とほぼ同じ量の自習を前提に組まれています。授業だけを数えて「2,200時間」と言うと、実際に投じられている時間を4割ほど少なく見積もることになります。
英語が「できる」の基準は、ILRスケールの3という線にある
「マスター」という言葉は人によって指す水準が違います。FSIはここを曖昧にしていません。ページの逐語は「the time usually expected for a student to reach an integrated score of 3 (Speaking + Listening) on the Interagency Language Roundtable (ILR) scale(ILRスケールでスピーキングとリスニングの統合スコア3に達するまでに通常見込まれる時間)」です。
| ILRのレベル | 名称(ILRの表記) | 要点(ILRの記述から) |
|---|---|---|
| 0 | No Proficiency | 話し言葉として機能しない。単発の単語が出る程度 |
| 0+ | Memorized Proficiency | 暗記した言い回しで当面の必要を満たせる |
| 1 | Elementary Proficiency | 最低限の儀礼と、身近な話題のごく簡単な対面会話 |
| 2 | Limited Working Proficiency | 日常的な社交と、範囲の限られた業務のやりとり |
| 3 | General Professional Proficiency | 実務・社交・専門の話題で、正式・非正式を問わずほとんどの会話に有効に参加できる |
| 4 | Advanced Professional Proficiency | あらゆる水準の専門的な必要に応える流暢さと正確さ |
| 5 | Functionally Native Proficiency | 教養ある母語話者と機能的に同等 |
レベル3の説明でILRが具体例として挙げているのは、会議の進行、ブリーフィングの実施、反論への応答、方針の説明と擁護といった業務です。一方で同じ記述には「Pronunciation may be obviously foreign.(発音は明らかに外国語なまりでありうる)」とも書かれています。
つまりFSIの2,200時間が目指しているのは、母語話者と区別がつかない英語ではありません。なまりが残ったままでも、仕事の場でほぼ支障なく通じる水準——それが2,200時間の到達点です。「ネイティブ並み」を指す5の水準に必要な時間を、FSIは公表していません。
日本の学校で英語に充てる授業時間は、合計で何時間か
では日本の学校教育は、英語に何時間を使っているのでしょうか。授業時数は学校教育法施行規則の別表に、単位時間の長さは同じ別表の備考に書かれています。
| 学年 | 教科の区分 | 年間の授業時数 | 1単位時間 | 時間に換算(編集部の計算) |
|---|---|---|---|---|
| 小学校3年 | 外国語活動 | 35 | 45分 | 26.25時間 |
| 小学校4年 | 外国語活動 | 35 | 45分 | 26.25時間 |
| 小学校5年 | 外国語 | 70 | 45分 | 52.5時間 |
| 小学校6年 | 外国語 | 70 | 45分 | 52.5時間 |
| 中学校1〜3年 | 外国語 | 各学年140(3年で420) | 50分 | 350時間 |
| 小学校+中学校の合計 | ― | 630単位時間 | ― | 507.5時間 |
高等学校は単位制で、教科ごとの授業時数の標準が定められていません。代わりに標準単位数が決まっています。文部科学省が公表している「平成30年改訂 高等学校学習指導要領 各学科に共通する教科・科目等及び標準単位数」では、「英語コミュニケーションⅠ」が標準単位数3・必履修科目で、「2単位まで減可」と注記されています。
単位の計算方法について、文部科学省は「単位については、1単位時間を50分とし、35単位時間の授業を1単位として計算することを標準としている」と公表しています。3単位なら105単位時間=87.5時間です。
| 区分 | 時間(編集部の計算) | 根拠 |
|---|---|---|
| 小学校(3〜6年) | 157.5時間 | 学校教育法施行規則 別表第一 |
| 中学校(1〜3年) | 350時間 | 学校教育法施行規則 別表第二 |
| 高校の必履修ぶん(英語コミュニケーションⅠ・3単位) | 87.5時間 | 高等学校学習指導要領の標準単位数 |
| 小1年生から高校卒業までの最低ライン | 595時間 | 上の3つを編集部が足した値 |
FSIの2,200時間に対して、日本の学校で公的に確保されている英語の時間は、最低ラインでおよそ595時間。3.7倍の開きがあります。もちろん実際には多くの高校が英語コミュニケーションⅡ・Ⅲや論理・表現を履修させるので、この595時間は「下限」です。ただし上限がどこまで伸びるかは学校ごとに違い、全国の実数を国は公表していません。
英語の授業時間と、日本の中高生の到達レベルを並べてみる
時間だけでは足りません。文部科学省は毎年、公立の中学校・高等学校を全数調査して、生徒の英語力をCEFRの水準で公表しています。令和6年度「英語教育実施状況調査」の数字です。
| 区分 | 指標 | 令和5年度 | 令和6年度 | 国の目標(令和9年度) |
|---|---|---|---|---|
| 中学生 | CEFR A1レベル相当以上(英検3級相当) | 50.0% | 52.4% | 60%以上 |
| 高校生 | CEFR A2レベル相当以上(英検準2級相当) | 50.6% | 51.6% | 60%以上 |
| 高校生 | CEFR B1レベル相当以上(英検2級相当) | 19.8% | 21.2% | 30%以上 |
調査対象は中学校9,130校、高等学校3,241校(合計3,968学科)。基準日は特に指定がない場合、令和6年12月1日です。小中の9年間で507.5時間を使ったあと、CEFR A1相当以上に届いている中学生は52.4%。残りの半数弱は、その手前にいるということになります。
ここでILRとCEFRを直接つなぐ換算表は、FSIも文部科学省も公表していません。したがって「595時間でILRのどのレベルに届くか」は、公表資料からは出せない数字です。分かるのは、時間の総量が3.7分の1で、到達率も国の目標に届いていない、という2つの事実だけです。
英語の学習時間を「1日あたり何時間」に割り戻すとどうなるか
2,200時間という数字は大きすぎて距離感がつかめません。1日あたりに割り戻した表を置きます。ここから先はすべて編集部の割り算で、FSIが公表している数字ではありません。
| 1日の学習時間 | 2,200時間に届くまでの日数 | 年数(365日で割った値) |
|---|---|---|
| 0.5時間(30分) | 4,400日 | 約12.1年 |
| 1時間 | 2,200日 | 約6.0年 |
| 2時間 | 1,100日 | 約3.0年 |
| 3時間 | 約734日 | 約2.0年 |
| 5時間 | 440日 | 約1.2年 |
| 8時間 | 275日 | 約0.75年 |
FSIの研修生は、授業と自習を合わせて週40時間=1日あたり約5.7時間を、休みなく88週続ける計算になります。これは職務として語学だけをやる環境の数字であり、仕事や学業と並行する条件で同じペースを再現できるとは限りません。
FSI自身も、この時間はあくまで目安だと書いています。逐語は「though the actual time can vary based on several factors, including the language learner’s natural ability, prior language-learning experience, and time spent in the classroom.(ただし実際にかかる時間は、学習者の生来の適性、過去の言語学習経験、教室で過ごした時間など、いくつかの要因によって変わりうる)」です。
英語の学習時間の数字を読むとき、外してはいけない3つの前提
2,200時間という数字は一人歩きしやすい数字です。FSIのページに実際に書かれている条件を、3つに整理します。
| 前提 | FSIの記載 | これを外すとどうなるか |
|---|---|---|
| 誰が学ぶか | 英語を母語とする米国政府職員 | 日本語話者が英語を学ぶ時間として読むと、公表資料に無い前提を足すことになる |
| どこまで行くか | ILRスケールの統合スコア3(スピーキング+リスニング) | 「母語話者と同等」の水準と取り違える |
| どう学ぶか | 週23時間の授業+週17時間の自習 | 独学の総時間と、専任講師のもとでの研修時間を同じ土俵で比べてしまう |
3つのうち、いちばん抜けやすいのは1つ目です。FSIの表は「英語話者から見た他言語の難しさ」の地図であって、「日本語話者から見た英語の難しさ」を測ったものではありません。両者が同じ距離だという保証は、FSIのページのどこにも書かれていません。
それでもこの数字が参照され続けるのは、言語習得の所要時間を政府機関が実務データとして公表している例が他にほとんどないからです。代わりの一次ソースが無い以上、条件付きの目安として読むのが、いまのところ最も正確な扱い方になります。
英語の学習時間で、公表されていない数字
よく探されるのに、公式に数字が出ていないものを、公表されている範囲と合わせて並べます。
| 数字 | 公表の状況 |
|---|---|
| 日本語話者が英語を習得するのに必要な時間 | FSIも文部科学省も公表していない。FSIの表は英語話者から見た他言語の所要時間 |
| ILRスケールの4・5に達するまでの時間 | FSIが公表しているのは統合スコア3までの目安だけ |
| ILRとCEFRの対応表 | FSIのページにもILRのスキル記述にも対応表が無い |
| 日本の高校生が実際に履修している英語の総単位数 | 高校は単位制で授業時数の標準が定められておらず、全国の実履修単位数を国は公表していない |
| ケンブリッジ英語検定の各級に必要な学習時間(guided learning hours) | ケンブリッジ英語検定の公式サポートサイトで確かめる |
| FSIの研修における到達率(何%が期間内に3に届くか) | FSIのページに記載が無い |
「日本人が英語をマスターするには2,200時間」と言い切っている説明は、FSIが書いていない前提を1つ足しています。足していること自体が誤りだとは言えませんが、足したという事実は書かれるべきです。
英語の学習時間を調べるとき、最後に確認しておくこと
この記事で並べた数字を、確認の順番に並べ直します。
- FSIのカテゴリIVは88週・2,200授業時間。日本語・韓国語・中国語・アラビア語の4言語群が該当する
- この時間はILRスケールの統合スコア3(General Professional Proficiency)に届くまでの目安
- 1週間の内訳はFSIの記載で授業23時間+自習17時間=40時間
- 日本の小中の外国語は630単位時間=507.5時間。高校の必履修ぶんを足しても595時間が下限
- 令和6年度の到達率は中学生のCEFR A1相当以上が52.4%、高校生のA2相当以上が51.6%
- 2,200時間は1日1時間なら約6年、1日3時間なら約2年に相当する(編集部の割り算)
- FSI自身が「実際の時間は要因によって変わりうる」と注記している
数字を目標に使うなら、必要なのは「2,200」という総量よりも、「週に何時間を、何週続けるか」という分解のほうです。FSIが週の内訳まで公表しているのは、そこが設計の本体だからだと読めます。
言語カテゴリ・週数・授業時間・週の内訳は米国務省FSIの「Foreign Language Training」ページ、レベルの定義はInteragency Language Roundtableの「Language Skill Level Descriptions – Speaking」、日本の授業時数は学校教育法施行規則の別表第一・別表第二(e-Gov法令検索)、高校の標準単位数と単位の計算方法および生徒の英語力は文部科学省の公表資料から採りました。いずれも2026年9月11日に開いて確認しています。
この記事で使った英語の学習時間の一次ソース
すべて2026年9月11日に開いて確認しました。リンクは張っていないため、アドレスをコピーして開いてください。
米国務省FSI|Foreign Language Training(言語カテゴリ別の週数と授業時間):https://www.state.gov/foreign-language-training/
Interagency Language Roundtable|Language Skill Level Descriptions – Speaking(ILRスケールの定義):https://www.govtilr.org/Skills/ILRscale2.htm
e-Gov法令検索|学校教育法施行規則 別表第一・別表第二(小学校・中学校の授業時数):https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000080011
文部科学省|平成30年改訂 高等学校学習指導要領 各学科に共通する教科・科目等及び標準単位数:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/02/12/1413264_001.pdf
文部科学省|授業時数等に関する学校教育法施行規則及び学習指導要領の規定(単位の計算方法):https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1399930.htm
文部科学省|令和6年度「英語教育実施状況調査」概要:https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1415043_00007.htm

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