英語の発音記号は何種類あるのか。ケンブリッジ英語辞典が公開している記号表を数えると、母音の欄が25行、子音の欄が25行で合計50記号です。うちイギリス発音の欄に出るのは母音22・子音24、アメリカ発音の欄に出るのは母音17・子音25でした。
この記事は、国際音声学会(International Phonetic Association)が公開している国際音声記号チャート2020年版と、ケンブリッジ英語辞典の発音記号の解説ページ、そして文部科学省の学習指導要領解説(外国語編)に載っている記述だけを並べ直したものです。記号の数はすべて編集部が各公式資料の表を1つずつ数えた値で、2026年9月16日に取得した版で確認しました。公表されていない数字は書いていません。
英語の発音記号は、辞書の表で数えると50記号
まず答えの数字から書きます。ケンブリッジ英語辞典は「Pronunciation symbols(発音記号)」というページで、自社の辞書が使う記号をすべて一覧にしています。そのページは母音・子音・その他の音・強勢と音節の4つの区画に分かれています。
| 区画 | 並んでいる記号の数 | うちイギリス発音の欄に出る数 | うちアメリカ発音の欄に出る数 |
|---|---|---|---|
| 母音(Vowels) | 25 | 22 | 17 |
| 子音(Consonants) | 25 | 24 | 25 |
| 母音+子音の合計 | 50 | 46 | 42 |
「英語の発音記号は44個」という言い方をよく見かけますが、その44という数はイギリス発音だけを見て、しかも三重母音2つを別枠に置いたときの数え方です。ケンブリッジの表でイギリス欄の母音22から三重母音の /aɪə/ と /aʊə/ を外すと20、子音は24。20+24で44になります。数え方によって数が動くので、どの範囲を数えたのかを併せて見る必要があります。
発音記号の正体は国際音声記号(IPA)という共通の枠組み
辞書に並ぶ発音記号は、辞書会社が独自に考えた文字ではありません。ケンブリッジ英語辞典は自社の解説ページで、発音を書き表すのに国際音声記号(International Phonetic Alphabet)の記号を使っていると明記しています。
国際音声記号は国際音声学会が管理していて、1枚のチャート(一覧表)にまとめられています。国際音声学会の公式サイトによれば、チャートは2012年7月以降クリエイティブ・コモンズ表示・継承4.0国際ライセンスで自由に再利用できる形で公開されており、2025年以降は毎年、最新の改訂年を記した注釈付きで再発行されています。
つまり英語の発音記号は、英語専用に作られた記号ではなく、世界中の言語の音を書き分けるために用意された記号の集合から、英語で必要な分だけを借りている、という関係になります。
発音記号の元になっている国際音声記号チャートは、文字だけで107個
では元になっているチャートには、全部でいくつ記号が載っているのか。2020年版のチャートを区画ごとに数えると、次のようになりました。
| チャートの区画 | 記号の数 | 中身の例 |
|---|---|---|
| 肺気流の子音(Consonants: Pulmonic) | 59 | p b t d k ɡ m n ŋ s z ʃ ʒ θ ð など |
| 非肺気流の子音のうちクリック音 | 5 | ʘ ǀ ǃ ǂ ǁ |
| 非肺気流の子音のうち入破音 | 5 | ɓ ɗ ʄ ɠ ʛ |
| その他の記号(Other Symbols) | 10 | ʍ w ɥ ʜ ʢ ʡ ɕ ʑ ɺ ɧ |
| 母音(Vowels) | 28 | i y ɪ e ø ə ɛ æ a ɑ ɒ ɔ o u ʊ ʌ など |
| 文字の合計 | 107 | ― |
| 補助記号(Diacritics) | 31 | 無声化・有声化・帯気・鼻音化・軟口蓋化など |
| 超分節的要素(Suprasegmentals) | 9 | 第一強勢・第二強勢・長音・半長音・音節境界など |
文字だけで107、補助記号と超分節的要素を足すと147。英語の辞書が使う50記号は、この107の中から選ばれた一部だという位置づけになります。放出音を表す記号や声調記号は、英語の辞書ではまず出てきません。
発音記号の母音一覧は、単母音・二重母音・三重母音の3層
母音の欄をもう少し細かく割ります。ケンブリッジの表に並ぶ母音25記号は、1つの音で完結するもの、2つの音を続けて出すもの、3つ続けるものの3層に分かれます。
| 層 | 記号 | 数 | 例語(辞書の表に併記されている語) |
|---|---|---|---|
| 単母音 | iː ɪ ɑː æ ʌ ɔː ɒ uː ʊ e ɜː ɝː ə ɚ | 14 | sheep, ship, father, hat, cup, horse, sock, blue, foot, head, bird, above, mother |
| 二重母音 | eɪ aɪ ɔɪ əʊ oʊ aʊ ɪə eə ʊə | 9 | day, eye, boy, nose, mouth, ear, hair, pure |
| 三重母音 | aɪə aʊə | 2 | fire, hour |
記号の後ろに付いている「ː」は長音を表す超分節的要素で、母音そのものの文字ではありません。/i/ と /iː/ は別の記号ではなく、同じ文字に長さの印を足したものです。ここを別扱いにするか同じ扱いにするかでも、総数は変わります。
発音記号の子音一覧は24個、アメリカ発音だけ1つ多い
子音の欄は母音より読み方が単純です。ケンブリッジの表は25行ありますが、うち1行はアメリカ発音の欄にしか音が置かれていない記号で、残りの24行はイギリス・アメリカの両方に音が付いています。
| グループ | 記号 | 数 |
|---|---|---|
| 破裂音 | p b t d k g | 6 |
| 摩擦音 | f v θ ð s z ʃ ʒ h | 9 |
| 破擦音 | tʃ dʒ | 2 |
| 鼻音 | m n ŋ | 3 |
| 接近音・側面接近音 | l r w j | 4 |
| アメリカ発音の欄だけにある記号 | t̬(cutting の t) | 1 |
合計は6+9+2+3+4で24、これにアメリカ欄だけの1つを足して25行です。この t̬ は、アメリカ発音で母音に挟まれた t が短く弾かれる音を書き分けるために置かれている記号で、イギリス欄には音が付いていません。
イギリスとアメリカで、発音記号がそろわない箇所は決まっている
同じ辞書の同じ表でも、イギリス欄にしか出ない記号とアメリカ欄にしか出ない記号があります。ケンブリッジの表で音声が片方にしか付いていない記号を抜き出すと、次の11個でした。
| どちらか片方だけ | 記号 | 例語 | 数 |
|---|---|---|---|
| イギリス発音の欄だけ | ɒ / ɜː / əʊ / ɪə / eə / ʊə / aɪə / aʊə | sock, bird, nose, ear, hair, pure, fire, hour | 8 |
| アメリカ発音の欄だけ | ɝː / ɚ / oʊ / t̬ | bird, mother, nose, cutting | 4 |
偏りは母音側に集中しています。子音で片方にしかないのは t̬ の1つだけで、残りの24子音は両方の欄に音が付いています。bird がイギリスでは /ɜː/、アメリカでは /ɝː/ になるように、r の扱いが絡む母音でずれが出る、という形です。
なお同じページには、語末の r をイギリス発音では次に母音が続くときだけ発音することを示す記号も載っています。four apples が /ˌfɔːr ˈæp.əlz/、four cars が /ˌfɔː ˈkɑːz/ と書き分けられる、という説明です。
日本語にない音は、発音記号のどれか。文部科学省が名指ししているのは2つ
ここからは公的な資料の側を見ます。小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編には、fox という語を繰り返し聞いたり発音したりすることで、児童が日本語にない /f/ や /ks/ の音に触れる、という記述があります。
文部科学省の解説が「日本語にない」と名指しで記号を挙げているのは、編集部が確認した範囲ではこの /f/ と /ks/ の2つです。それ以外の音については、個別の記号を挙げる形ではなく、次のような書き方で示されています。
| 資料 | 日本語との違いとして書かれている内容 |
|---|---|
| 小学校解説 外国語活動・外国語編 | 日本語にない /f/ や /ks/ の音に触れる/日本語のミルク(mi-ru-ku)は3音節だが英語の milk は1音節 |
| 小学校段階の扱い(中学校解説の記述) | 日本語の発音にはない母音や子音があること/英語には like や music など子音で終わる語があること |
| 中学校解説 外国語編 | 母音や子音の種類や数が英語と日本語では異なること/school・street・books のように英語では子音が続くことがあること |
公的な資料が挙げている違いは、個々の記号よりも「音のつながり方」に寄っています。子音が3つ続く street、子音で終わる like、1音節で言い切る milk。記号を1つずつ覚えるだけでは届かない部分がここに書かれている、と読めます。
発音記号では別々でも、日本語の表記では1つになってしまう組み合わせ
上の子音一覧を、日本語のカタカナ表記に置き換えたときにどうなるかで並べ直すと、区別が消える組み合わせが見えます。以下はケンブリッジの表に載っている例語を、記号の組み合わせでまとめ直したものです。
| 発音記号の組み合わせ | 例語 | カタカナにすると |
|---|---|---|
| θ と s | think / say | どちらもサ行に寄る |
| ð と z | this / zoo | どちらもザ行に寄る |
| l と r | look / run | どちらもラ行に寄る |
| b と v | book / very | どちらもバ行に寄る |
| æ と ʌ と ɑː | hat / cup / father | どれもア段に寄る |
| iː と ɪ | sheep / ship | どちらもイ段に寄る |
この表の右列は、編集部がカタカナ表記に置き換えた場合の整理であって、文部科学省や辞書が公表している分類ではありません。左の2列だけが公式資料に載っている情報です。学習指導要領解説が書いているのは「母音や子音の種類や数が異なる」というところまでで、どの音とどの音が混同されやすいかまでは書かれていません。
学習指導要領には「発音記号」という語が1度も出てこない
意外に思われるかもしれませんが、学校の教育課程の基準の側は、発音記号という言葉を使っていません。編集部が小学校・中学校・高等学校の各学習指導要領解説 外国語編の全文テキストを検索したところ、結果は次のとおりでした。
| 資料 | 「発音記号」の出現回数 | 「発音」の出現回数 |
|---|---|---|
| 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編 | 0回 | 91回 |
| 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編 | 0回 | 53回 |
| 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編 英語編 | 0回 | 19回 |
3冊とも「発音記号」は0回、「国際音声記号」「音声記号」も0回でした。一方で「発音」という語は合計163回出てきます。つまり公的な基準は、記号を読めるようにすることではなく、音そのものを扱うように書かれている、ということになります。
上の回数は、文部科学省が公開しているPDFから抽出したテキストに対して編集部が文字列検索をかけた値です。PDFの文字抽出の都合で数が前後する可能性があるため、目安として扱ってください。版は小学校・中学校が平成29年7月、高等学校が平成30年7月のものです。
中学校で扱う発音記号まわりの内容は、5つの項目に整理されている
では中学校では音声について何を扱うことになっているのか。中学校学習指導要領解説 外国語編は、音声の指導事項を5項目に分けています。
| 項目 | 内容 | 解説に挙がっている例 |
|---|---|---|
| (ア) | 現代の標準的な発音 | 特定の地域やグループに偏らない発音を扱う |
| (イ) | 語と語の連結による音の変化 | Take it easy. / What time is it now? / Would you tell me the way to the library? |
| (ウ) | 語や句、文における基本的な強勢 | machíne/néwspàper/recórd(動詞)と récord(名詞)/in the évening |
| (エ) | 文における基本的なイントネーション | ― |
| (オ) | 文における基本的な区切り | ― |
5項目のうち、単独の音を扱うのは(ア)だけで、残りの4項目は音のつながり・強さ・高さ・切れ目に関するものです。解説は、英語では強く発音される部分がほぼ等間隔に置かれて英語特有のリズムが生まれる、名詞・動詞・形容詞などの内容語には強勢が置かれることが多い、とも書いています。
なお(ア)の解説には、小学校の外国語科で /ei/ /biː/ /siː/ のような文字の名称を扱っている、という記述もあります。ここは解説の本文に記号がそのまま書かれている数少ない箇所です。
辞書ごとに発音記号の書き方は少しずつ違う
同じ国際音声記号を使っていても、辞書によって書き方の細部は一致しません。ケンブリッジ英語辞典は自社の解説ページの末尾で、同じ社内の辞書でも表記が違う箇所があることを注記しています。
| 注記されている違い | 内容 |
|---|---|
| 長音記号 | American Dictionary と Essential American English Dictionary では、/i/ /ɑ/ /ɔ/ /u/ に長音記号「ː」を付けない |
| 音節の区切り | 音節境界を「.」ではなく中点「·」で示す |
同じ出版社の中でも、辞書のシリーズが違えば記号の表記が変わります。別の出版社の辞書に移ればさらに差が出るのが普通です。ケンブリッジの表にある /ɝː/ や /t̬/ のような記号は、すべての辞書が採用しているわけではありません。
そのため「英語の発音記号は全部で何個か」という問いに、どの辞書を見ても同じ答えが返ってくるわけではない、という点は押さえておいたほうが読み違いが減ります。数を聞くときは「どの辞書の表で」を必ず添える必要があります。
発音記号を扱う記号は、音以外にも用意されている
最後に、音そのものではないが辞書の発音表記に混ざる記号を整理します。国際音声記号チャートでは超分節的要素として9つが用意されていて、そのうち英語の辞書で日常的に見るのは次のものです。
| 記号 | 意味 | ケンブリッジの表に載っている例 |
|---|---|---|
| ˈ | 第一強勢(いちばん強く読む部分の直前に置く) | surprise /ˈ付きで /səˈpraɪz/ |
| ˌ | 第二強勢(第一強勢より少し弱い) | retell //ˌriːˈtel/ |
| . | 音節の区切り | system //ˈsɪs.təm/ |
| ː | 長音 | sheep の /iː/ など |
/ˈsɪs.təm/ という表記の中で、実際に音を表しているのは s ɪ s t ə m の6文字だけで、ˈ と . は読み方の指示にあたります。記号の数を数えるときに、この2種類を混ぜて数えるかどうかで結果が変わります。
なおケンブリッジの表には、強勢のない音節に出る /i/ /u/(happy, situation)、他言語由来の語に出る /ɒ̃/ /x/(croissant, loch)、母音があってもなくても読める音節を示す /əl/ /əm/ /ən/ /ər/(label, criticism, sudden, dictionary)も「Other sounds」として別枠で並んでいます。冒頭で数えた50記号には、この別枠は含めていません。
発音記号で最後に確認しておくこと
この記事で並べた数字を、出どころ別にもう一度まとめます。数はどれも編集部が公式資料の表を数えた値です。
| 数字 | 出どころ | 取得日 |
|---|---|---|
| 母音25・子音25=50記号 | ケンブリッジ英語辞典 Pronunciation symbols | 2026年9月16日 |
| イギリス欄46・アメリカ欄42 | 同上(片方にしか音が付かない記号を除いて計上) | 2026年9月16日 |
| 国際音声記号チャートの文字107・補助記号31・超分節的要素9 | 国際音声学会 IPAチャート2020年版 | 2026年9月16日 |
| 「発音記号」の出現0回・「発音」163回 | 文部科学省 小中高の学習指導要領解説 外国語編 | 2026年9月16日 |
確認しておきたいのは3点です。第一に、記号の総数は「どの辞書の、どの欄を数えたか」で変わること。44という数もそのひとつの数え方であって、唯一の正解ではありません。
第二に、国際音声記号チャートの107文字と、英語の辞書が使う50記号は別の話だということ。前者は世界中の言語を書き分けるための在庫で、英語はそこから借りている側です。
第三に、日本の教育課程の基準は発音記号という語を一度も使っておらず、音のつながり・強勢・イントネーション・区切りのほうに紙幅を割いていること。記号の一覧を持っていることと、学校で扱う内容が重なるとは限りません。
国際音声学会(International Phonetic Association)の IPAチャート2020年版、ケンブリッジ英語辞典の Pronunciation symbols ページ、文部科学省の小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編、中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編、高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編 英語編。いずれも2026年9月16日に取得した版で確認しました。記号の数は編集部が表を数えた値です。

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