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音読の効果は?研究データで分かっていること

声に出して英文を読む学習法について、日本の高校で実際に測られた数字があります。神奈川県立高校で1日10分・10日間の音読を課された39名は、4か月後の県下一斉テストで総点が29.7点から35.2点へ上がり、3グループ中この群だけが統計的に有意でした(t=2.69、p<0.01)。リスニングの得点も11.5点から14.5点へ(t=-2.6、p<0.01)。

この記事は、公益財団法人 日本英語検定協会の「英検」研究助成報告と、日本実践英語音声学会の学会誌に載っている音読の実証研究を、数字だけ抜き出して並べ直したものです。報告書と論文はすべて2026年9月16日に各公式サイト(eiken.or.jp・pepsj.org)でPDFを取得して確認しました。本文の平均値・t値・有意確率は、すべて原典の表と図に印刷されている値です。編集部が推測で埋めた数字は1つもありません。

目次

音読・暗唱・筆写の3グループを比べた高校の実験

音読を単独で取り出して他の学習法と比べた研究として、小林潤子(神奈川県立川崎高等学校)による第18回「英検」研究助成 A研究部門 報告Ⅱ「英語学習方法の考察:音読,暗唱,筆写」(pp.30-49)があります。2005年春に実施された本実験です。

被験者は県立高校の英語Ⅱ基礎を選択している生徒で、暗唱グループ45名、音読グループ39名、筆写グループ53名の計137名。教材は英語Ⅱの教科書『Tomorrow』(啓林館)Lesson 1 Part 1・2です。

グループ 人数 課された10日間の課題
暗唱 45名 1日10分の音読・記録用紙の提出・暗唱(補助プリント使用)
音読 39名 1日10分の音読・記録用紙の提出・1分30秒以内で課題文を音読し教師のチェックを受ける
筆写 53名 プリントの指示に従って1日10分程度の筆写

音読グループにだけ「1分30秒以内」という時間制限が設けられているのが、この設計の特徴です。これはパイロット・スタディーで音読の課題が緩すぎたという反省から追加されたもので、報告書にその経緯が書かれています。

音読グループの事後テストは3グループ中どこに位置したか

10日間の課題が終わった直後の事後テストの結果です。発音・語句・熟語・英文作成の問題で構成され、別にクローズ・タイプのテストも実施されました。

項目 暗唱グループ 音読グループ 筆写グループ
総点 25.7 24.3 24.9
発音 6.4 6.4 6.2
語彙 5.8 5.8 5.8
熟語 8.0 6.8 8.1
構文 5.5 5.3 5.6
クローズ・タイプ 19.3 14.0 15.7

総点は分散分析で F(2,127)=0.46、p<0.268。3グループ間に統計的な差はありませんでした。一方、熟語だけは F(2,123)=4.1、p<0.019 で有意差があり、多重比較で暗唱と音読の間(p=0.041)、音読と筆写の間(p=0.027)に差が出ています。

クローズ・タイプのテストでは、暗唱グループと音読グループの間に有意差がありました(p<0.009)。数字を見ると音読14.0に対し暗唱19.3で、5.3点の開きです。発音と語彙は3グループともほぼ同じ値でした。

報告書は、筆写グループにも差が出なかった理由として、事後アンケートで30%の生徒が「声を出して筆写した」と答えていた点を挙げています。書く課題であっても、実際には音読を伴っていた可能性があるということです。

音読の直後に測った速読では3グループとも数値が上がった

同じ実験では、課題文の速読を事前・事後の2回測っています。計算式は「単語数 × 正解語数 ÷ 読んだ時間数 × 60(秒)」と報告書に明記されています。

グループ 事前(1回目) 事後(2回目)
暗唱 33.1 91.5
音読 30.0 69.3
筆写 33.3 94.8

3グループとも事前・事後に統計的な有意差が出ていますが、上昇幅は音読の39.3が最も小さく、筆写の61.5が最も大きい結果でした。同じ英文を2回読むという条件なので、2回目が速くなること自体は自然です。

なお、課題文とは別の3本の英文で測った速読(図4)では、暗唱33.1・36.4・35.0、音読30.0・32.2・37.1、筆写33.3・30.3・36.5。テキストごとに順位が入れ替わっており、一定の傾向は読み取れません。

音読を続けた群だけが県下一斉テストの総点で有意に上がった

この研究でいちばん注目されているのは、10日間の実験そのものではなく、その後の追跡です。神奈川県の教員が自主的に作成し県下の多くの高校が受験する「県下一斉テスト」を、4月17日(授業開始前)と9月の2回実施し、4か月後の変化を比べています。

2年次生以外を除外した結果、暗唱グループ40名、音読グループ32名、筆写グループ33名での比較になりました。

グループ 4月の総点 9月の総点 群内のt検定
暗唱(40名) 29.6 31.6 有意差なし
音読(32名) 29.7 35.2 t=2.69、p<0.01
筆写(33名) 32.9 33.8 有意差なし

100点満点の総点で、音読グループだけが5.5点上がり、統計的にも有意でした。4月時点では音読グループは3グループ中の2位(29.7点)で、筆写グループより3.2点低い位置にいました。グループ間の比較では有意差は出ていない点も、報告書は明記しています。

語彙・文法・構文に関する項目(10点満点)では、どのグループにも統計的な有意差は出ていません。ただし報告書は、4月には音読グループがすべての項目で3グループ中の最下位だったのに、9月には構文以外の項目で最も良い点数になったと書いています。

音読とリスニングの関係=4か月で11.5点から14.5点

県下一斉テストは listening comprehension test を含む総合問題です。このリスニング部分だけを取り出した結果が、この研究で最も差が出た箇所でした。

グループ 4月 9月 差 t検定
暗唱(40名) 10.8 12.2 +1.4 t=-2.04、p<0.02
音読(32名) 11.5 14.5 +3.0 t=-2.6、p<0.01
筆写(33名) 13.5 13.2 -0.3 有意差なし

声を出す課題を負った暗唱と音読の2グループだけにリスニングの伸びが出て、筆写グループは0.3点下がりました。音読グループは4月に11.5点で筆写グループ(13.5点)を2点下回っていましたが、9月には1.3点上回っています。

報告書は、9月が夏休み明けで文化祭準備の時期にあたり、生徒のテストへの取り組み自体が落ちる懸念があったにもかかわらずこの結果が出たと書いています。ただし実験そのものは5月までに終わっており、5月以降は3クラスとも同じ学習方法(補助教材を使った繰り返し練習)に統一されている点は押さえておく必要があります。

音読で下がった数字もある=読解は13.3から12.3へ

同じ県下一斉テストの読解問題は、リスニングとは逆の動きをしました。

  • 暗唱グループ=4月 12.9 → 9月 12.9(変化なし)
  • 音読グループ=4月 13.3 → 9月 12.3(1.0点の低下)
  • 筆写グループ=4月 14.3 → 9月 12.7(1.6点の低下)

3グループとも読解は横ばいか低下で、音読グループも1.0点下がっています。報告書はこれを「残念ながらこの比較では、読解に関しては、下降している」と率直に記載しています。同じ研究の中で、リスニングは上がり読解は下がったということです。

直後の事後テストでも、総点では3グループに差がありませんでした。3週間後の前期中間試験では、合計点に統計的な有意差はなく、クローズ・タイプのテストで暗唱グループと筆写グループの間にだけ差が出ています(F(2,159)=4.16、p<0.017)。このとき順位は暗唱・音読・筆写の順に入れ替わり、直後は筆写を下回っていた音読が筆写を上回りました。

音読・シャドーイング・repetitionを比べた別の研究では差が出なかった

音読系の活動どうしを比べた研究もあります。鈴木久実(東京都立桐ヶ丘高等学校)による第19回「英検」研究助成 B実践部門 報告Ⅴ(pp.112-124)です。都立高校3年生普通科の文系3クラスを、9月から12月中旬まで次の3つに分けて指導しました。

グループ 処置回数 群内のt検定(事前→事後)
read and look-up 13回 t=.795、df=35、p=.432
シャドーイング 15回 t=-.971、df=37、p=.338
repetition 15回 t=-.331、df=39、p=.741

分散分析の結果は F(1,111)=.098、p=.754 で、リスニングテストの成績は統計上向上しませんでした。3グループそれぞれの中でも、有意な伸びは出ていません。事前テストの時点で3群が同質であることは確認されています(F(2,111)=0.835、p=.437)。

read and look-up は、英文を音読したあと教科書から目を上げて同じ英文を言う練習で、報告書では音読法の1つとして紹介されています。repetition は教科書を閉じて教員の後について言う練習です。3か月半・13〜15回では、これらの間に差が検出されなかったという結果です。

なお事前・事後テストには、2006年1月29日に実施された第3回実用英語技能検定2級のリスニングテストが使われています。事前と事後で同じテストを使っており、処置期間が3か月以上あるためテスト自体の学習の影響は少ないと判断した、と報告書に記載があります。

音読の伸び方は成績帯によって違うという報告がある

同じ報告書は、生徒を成績別に分けた分析も出しています。1学期の実証授業(教材導入時にシャドーイング40名/復習時にシャドーイング35名/リスニングのみ37名)を、偏差値55以上を上位者、45以上55未満を中位者、45未満を下位者として分けた結果です。

成績帯 分散分析 群ごとのt検定
上位者 F(1,41)=22.282、p=.000 リスニング群 t=-3.587(p=.003)/未知シャドーイング群 t=-3.160(p=.006)/既知シャドーイング群 t=-1.682(p=.118)
中位者 F(1,33)=2.332、p=.136 どのグループにも有意な伸びなし

上位者では3群のうち2群が有意に伸び、中位者ではどの群も伸びませんでした。同じ処置でも、生徒の出発点によって数字の出方が変わることを示しています。

報告書が先行研究として要約している玉井(1997)では、大学生を対象に5日間シャドーイング中心のリスニング指導を行い、聴解力が有意に伸長したうえ、上中下3群では下位群に強く現れる傾向があったとされています。この2つは逆向きの結果で、報告書自身も条件の違いを議論しています。

音読は頭の中でも起きている=心内音読をする生徒は8割以上

声に出していないときでも、頭の中で音を鳴らしながら読む読み方があります。これを「心内音読」と呼び、第26回「英検」研究助成 B実践部門 報告Ⅲ(東京都立白鷗高等学校 中野達也、pp.100-117)が高校1年生に年4回の質問紙調査を行っています。

調査に回答した216名のうち、8割以上が心内音読をしていると答えました。さらに、心内音読をしないと答えた生徒は、多読プログラムでの読了総語数が多い傾向にあったと報告されています。同じプログラムでの読了総語数は平均133,833.9語、平均読了冊数18.9冊です。

この報告は速読との関係を調べたもので、音を鳴らしながら読むことが読解速度にどう関わるかを扱っています。同じ集団のACEテストでは、読解速度(wpm)が9月82.26から2月85.53へ上がり、t=-2.992、p=.003で有意でした。ただし語彙は83.47から84.40への変化にとどまり、p=.216で有意差は出ていません。

報告書に出てくる用語

心内音読=黙読中に頭の中で音を鳴らす読み方。eye-mouth reading=内容理解を伴わずに口だけが動く読み方。report にはどちらも用語として登場し、後者は避けるべき読み方として挙げられています。

音読の数字を読むときに最後に確認しておくこと

ここまでの数字を、出典とセットでまとめます。

数字 出典 対象と期間
県下一斉テスト総点 29.7→35.2(t=2.69、p<0.01) 第18回「英検」研究助成 A研究部門 報告Ⅱ(小林潤子) 高校生32名・4月→9月
リスニング 11.5→14.5(t=-2.6、p<0.01) 同上 同上
事後テスト総点 F(2,127)=0.46、p<0.268(差なし) 同上 高校生137名・10日間
3活動の比較 F(1,111)=.098、p=.754(伸びなし) 第19回「英検」研究助成 B実践部門 報告Ⅴ(鈴木久実) 高校3年生114名・約3か月半
心内音読をする生徒 8割以上(回答216名) 第26回「英検」研究助成 B実践部門 報告Ⅲ(中野達也) 高校1年生・年4回の質問紙

確認しておく点は3つです。1つ目は、同じ研究の中でも、指標によって結果がはっきり割れていることです。音読グループは県下一斉テストのリスニングで+3.0点、総点で+5.5点でしたが、読解は-1.0点でした。「上がった」という要約だけでは、どの数字が上がったのかが分かりません。

2つ目は、期間の短さです。小林(第18回報告Ⅱ)の実験本体は10日間、追跡は4か月。鈴木(第19回報告Ⅴ)は3か月半で13〜15回の処置です。報告書自身が「長期的にどのような変化が出るか」については、教室でのリサーチであるため調べられなかったと書いています。

3つ目は、課題の出し方が結果を左右している点です。小林の報告は、パイロット・スタディーでは音読グループの成績が3群中で最も低く、本実験で「1分30秒以内に教師の前で音読する」という課題を追加したところ差が縮まったと記録しています。同じ「音読」という言葉でも、時間制限や提出物の有無で中身が変わるため、研究どうしを比べるときはまず課題の記述を読む必要があります。

本記事に記載した報告書は、いずれも2026年9月16日に公益財団法人 日本英語検定協会の公式サイトでPDFを取得し、表と図に印刷された数値をそのまま転記しています。原典にあたる場合は、「英検」研究助成報告 第18回・第19回・第26回を参照してください。

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