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多読の効果は?研究データで分かっていること

やさしい英語の本を大量に読む学習法について、日本国内で実際に測られた数字があります。高専2年生118名に週1回・15週間の授業内多読を行った調査では、英文の読解速度が95.8 wpmから124.0 wpmへ、平均28.2 wpm上がりました(p<.001)。内容理解の正答率を掛け合わせた修正WPMでは77.2から107.9へ、30.7の上昇です。

この記事は、中部地区英語教育学会紀要(J-STAGE公開)と、公益財団法人 日本英語検定協会の「英検」研究助成報告に載っている多読の実証研究を、数字だけ抜き出して並べ直したものです。論文はすべて2026年9月16日に各公式サイト(J-STAGE・eiken.or.jp)でPDFを取得して確認しました。本文に出てくる平均値・標準偏差・有意確率は、すべて各論文の表に印刷されている値です。編集部が推測で埋めた数字は1つもありません。

目次

多読で読解速度は15週間に平均28.2 wpm上がった

いちばん細かく数字が公開されているのは、藤井数馬(沼津工業高等専門学校)による「授業内多読による英文読解速度の変化について」です。中部地区英語教育学会紀要 第46巻 pp.247-252(2017年、DOI: 10.20713/celes.46.0_247)に掲載されています。

参加者は工業高等専門学校の2年生118名。平成27年9月から平成28年2月までの後期15週間、英語の授業内で図書館へ移動し、週1回・約30〜45分の多読を15回ほど行いました。読んだのはYL(読みやすさレベル)1.0〜2.0のGraded Readersが中心です。

測定 調査1(2015年9月) 調査2(2015年12月) 調査3(2016年2月) 上昇
WPM 平均(SD) 95.8(22.4) 117.8(31.7) 124.0(33.5) +28.2
修正WPM 平均(SD) 77.2(27.1) 81.0(33.2) 107.9(37.6) +30.7
人数 118名 118名 118名 —

WPMはクラスカル・ウォリス検定で H(2)=52.20、p=.000、修正WPMは H(2)=50.99、p=.000。どちらも0.1%水準で有意に上がっています。ただし伸びた時期が2つの指標でずれており、WPMは調査1から調査2にかけて、修正WPMは調査2から調査3にかけて大きく動きました。

多読の調査で使われた測り方=WPMと修正WPMの2本立て

この調査が2種類の数字を出しているのには理由があります。英文の字面を目で追う速さだけが上がっても、内容が分かっていなければ読めたことになりません。論文中ではこれを「滑り読み」と呼び、多読指導でいちばん避けるべき読み方だと書かれています。

そこで、読み終わるまでの秒数から出したWPMに、内容把握問題5題の正答率を掛けた値を「修正WPM(M-WPM)」として別に出しています。調査3ではWPM 124.0に対して修正WPM 107.9。つまり内容理解を条件に入れると、見かけの速度から約16 wpm差し引かれます。

測定に使った英文は、Nation & Malarcher(2007)から選ばれた3本で、298語・301語・305語。Lexile値は760L・710L・720L、Flesch Reading Ease は82.9・87.8・83.1と、難度をそろえてあります。参加者ひとりずつにストップウォッチを配り、読み始めから読み終わりまでを自分で計測させる方式です。

WPMと修正WPMの違い

WPM=1分あたりに読んだ語数。修正WPM=WPM×(内容把握問題の正答数÷問題数)。同じ速さで読んでも、内容把握問題の正答率が6割なら修正WPMはWPMの6割になります。

多読で読んだ語数が多い群ほど速度の伸びが大きい

同じ論文は、15週間に読んだ語数で参加者を3群に分けた結果も出しています。期間内の平均読語数は47,609語(最大165,033語、最小17,375語、SD 22,281)、平均読破冊数は46.3冊でした。

群(期間内の読語数) 人数 WPM 調査1→調査3 WPMの上昇 修正WPMの上昇
多読群(65,000語以上) 17名 106.7 → 137.0 +30.3 +41.7
中読群(30,000〜64,999語) 83名 95.8 → 124.8 +29.0 +30.4
少読群(29,999語以下) 18名 85.5 → 108.3 +22.8 +22.0

WPMの差は8 wpm弱(30.3対22.8)ですが、内容理解を条件に入れた修正WPMでは41.7対22.0と、ほぼ2倍の開きになります。読んだ量の差は、速さそのものより「分かりながら速く読む力」のほうにはっきり現れた形です。

伸びる時期も群でずれました。多読群は開始2.5か月ほどの調査2の時点で中読群・少読群との間に有意差が出ていますが(F(2,115)=5.20、p=.0069)、中読群が追いついてきたのは開始5か月ほど経った調査3です。開始時点の調査1では、修正WPMに3群間の有意差はありませんでした(F(2,115)=1.32、p=.271)。

多読を始めたときの英語力によって伸び方が変わる

同じ118名を、1年次11月に受けたTOEIC Bridgeテストのスコアで3群に分けた結果も公開されています。全体の平均スコアは125.2点(最大166点、最小92点、SD 12.8)でした。

群(TOEIC Bridge) 人数 WPM 調査1→調査3 WPMの上昇 修正WPMの上昇
上位群(130点以上) 41名 103.7 → 136.5 +32.8 +31.5
中位群(120〜128点) 43名 95.4 → 122.4 +27.0 +33.9
下位群(118点以下) 34名 86.9 → 111.1 +24.2 +25.9

「英語が苦手な人ほど伸びしろが大きい」という仮説が論文の冒頭に立てられていましたが、実測は逆で、WPMの上昇は上位群32.8がいちばん大きく、下位群24.2がいちばん小さい結果でした。調査1では上位群と下位群の間にしか有意差がなかったのに、調査3では上位群と中位群の間にも有意差が出ています。

ただし修正WPMでは順序が変わり、中位群の33.9が最大です。上位群と中位群の差は、WPMでは平均5.8開いた一方、修正WPMでは平均2.4縮まり、調査1の時点であった両群間の有意差は調査3では消えています。

英語力と読んだ量は一致していませんでした。上位群の52.9%が多読群に入る一方、上位群の17.6%は少読群。下位群の44.4%が少読群でしたが、下位群の11.1%は多読群に入っています。

高校生の多読では半年で13万語、600点満点中19.29点の上昇

高校生を対象にした数字は、公益財団法人 日本英語検定協会の第26回「英検」研究助成 B実践部門 報告Ⅲ(東京都立白鷗高等学校 中野達也、pp.100-117)にあります。高校1年生全員を対象に、9月から2月末までの約半年間、Oxford出版のGraded Readersを原則1週間に1冊読ませたプログラムです。

約半年間の読了総語数は平均133,833.9語、平均読了冊数は18.9冊、最高は48冊。高専の調査(15週で47,609語)と比べると、1人あたりの語数は3倍近くあります。

ACEテストの領域 満点 9月(プレ) 2月(ポスト) t値 p値
語彙 150点 83.47 84.40 -1.241 .216
文法 150点 78.56 89.14 -13.52 .000
読解 300点 175.59 183.37 -3.33 .001
総合 600点 337.62 356.91 -7.037 .000
wpm — 82.26 85.53 -2.992 .003

自由度は220(n=221)。総合600点満点で20点以上伸びた生徒は51.1%でした。読解速度の伸びは82.26 wpmから85.53 wpmの+3.27 wpmで、高専の調査の+28.2 wpmとは1桁違います。測定方法が異なり、この報告のwpmはベネッセコーポレーションのGTECの計算式を使った換算値である点に注意が必要です。

多読の読了語数と成績の相関係数は.396〜.495

同じ報告は、2月のポストテストの結果と読了総語数のピアソンの積率相関も出しています。n=221、いずれも1%水準で有意です。

ポストテストの領域 読了総語数との相関係数 有意確率(両側)
語彙 .495 .000
総合 .467 .000
文法 .442 .000
読解 .396 .000
wpm .396 .000

いちばん相関が強いのは語彙の.495、いちばん弱いのは読解とwpmの.396です。相関係数は0から1のあいだで、.4〜.5は「中程度の相関」と扱われる範囲にあたります。相関があるということと、多読が原因で成績が上がったということは別の話である点は、報告書自身も区別して書いています。

個別の数字も1件公開されています。総合点の伸びが最大だった生徒は読了総語数136,231語・18冊で、総合+144点(語彙+21点、文法+31点、読解+92点)。この生徒は2週間のオーストラリア短期留学に参加し、その際に購入した『ハリー・ポッターと賢者の石』の原作を2学期中に読了したと記録されています。

中学生の多読では100 wpm付近で伸びが止まったクラスがある

中学生の数字は、第18回「英検」研究助成 A研究部門 報告Ⅵ(佐藤知代、pp.92-109)にあります。中学2年生・3年生の選択授業で多読と速読練習を組み合わせ、pretest・midtest・posttestの3回で読解速度を測ったものです。

クラス 人数 pretest midtest posttest F値と多重比較
Class A 24名 77.7(31.7) 95.6(28.6) 103.5(36.5) 10.5** pre<post**
Class B 26名 72.7(35.3) 89.7(45.0) 105.8(41.4) 13.0** pre<post**
Class C 23名 103.3(33.6) 105.2(41.2) 115.0(34.4) 2.1 n.s.
Class D 28名 85.4(27.6) 103.6(29.6) 114.2(20.6) 20.2** pre<mid**

開始時に70〜80 wpm台だったClass A・B・Dは3クラスとも有意に速くなり、終了時にはいずれも100 wpmを超えました。一方、開始時にすでに103.3 wpmあったClass Cだけは有意差なし(F=2.1、n.s.)です。

報告書は、Class Cが最も読語数の多いクラスだったにもかかわらず伸びが緩かったことを挙げ、高橋・高梨(1993)が示した中学校の目標値100 wpmを引きながら「100 wpmあたりで天井が見られたもの」と述べています。読語数については、年間で中学2年生が約3万語、3年生が約6万語という数字が報告されています。

報告書に記載された学校段階別の目標値

中学=100 wpm/高校=150 wpm/大学=200 wpm。第18回「英検」研究助成 A研究部門 報告Ⅵに記載された数値です。

多読で動かなかった数字もある

3本の研究に共通して、すべての指標が上がったわけではありません。白鷗高校の報告では、語彙だけが83.47点から84.40点へ0.93点の変化にとどまり、t=-1.241、p=.216で有意差が出ていません。半年で13万語を読んだ集団でも、語彙テストの点数は統計的に動かなかったということです。

中学生の調査でも、4クラス中1クラス(Class C)は3回のテスト間に有意な得点差が確認されていません。高専の調査でも、読語数が29,999語以下の少読群は修正WPMの上昇が22.0と、多読群の41.7の約半分でした。

読んだ量が同じでも結果が同じにならない理由として、藤井(2017)は「読み方の質」を挙げ、内容をあまり考えず上滑りして読んでいる場合には修正WPMの向上は見込みにくいと書いています。ただしこれは今後の課題として挙げられている仮説であり、この論文では測定されていません。

多読の研究が自分で認めている限界=統制群がない

数字を読むうえで重要なのは、藤井(2017)が論文の「本研究の限界と今後の課題」で自ら書いている点です。調査対象は多読指導を受けた学習者だけで、多読をしなかった統制群が存在しません。そのため、28.2 wpmの上昇のうちどれだけが多読によるものかは、この論文からは分離できません。

参加者は同じ15週間に、検定教科書を使った精読中心の授業を週約140分、英文法・英作文中心の授業を週90分も受けています。読解速度の上昇には、これらの授業や、単に学年が進んだことによる成長も混ざっている可能性があります。

論文はほかに2つの限界を挙げています。内容把握問題の難度がテスト間で統制できていないこと、英語力の指標に使ったTOEIC Bridgeが調査開始の約10か月前のスコアであることです。白鷗高校の報告も、生徒の伸びの要因として夏の短期留学など多読以外の出来事を具体的に記載しています。

多読の授業で実際に使われていた本と時間

3本の研究がどういう条件で多読を行ったかを並べると、次のようになります。

  • 高専2年生118名=週1回・約30〜45分・15回、図書館でYL 1.0〜2.0のGraded Readers中心。15週で平均47,609語・46.3冊。授業外での読書は推奨のみで、長期休暇の課題を除き義務化していない
  • 高校1年生221名=9月〜2月末の約半年、Oxford出版のGraded Readersを原則1週間に1冊。平均133,833.9語・18.9冊、最高48冊
  • 中学2・3年生=選択授業。年間で中2が約3万語、中3が約6万語。読む本のレベルが上がる節目は第4時・第7時・第9時に観察された

高専の参加者は本調査の開始時点ですでに平均29,761語・48.1冊を読み終えていました。1年次の前期に週1回・約30分の授業内多読を計10回ほど経験しており、そのときはYL 1.0以下のOxford Reading TreeやFoundations Reading Libraryが中心です。つまり15週で28.2 wpm上がったという数字は、まったくの初学者の数字ではありません。

なお、白鷗高校の報告は多読プログラムと並行して心内音読(黙読中に頭の中で音を鳴らす読み方)の質問紙調査を年4回行っており、回答した216名のうち8割以上が心内音読をしていると答えています。心内音読をしないと答えた生徒は読了総語数が多い傾向にあった、と報告されています。

多読の数字を読むときに最後に確認しておくこと

ここまでに出てきた数字を、出典とセットでまとめます。

数字 出典 対象と期間
WPM +28.2/修正WPM +30.7 藤井数馬(2017)中部地区英語教育学会紀要 46, 247-252 高専2年生118名・15週
読了総語数 平均133,833.9語 第26回「英検」研究助成 B実践部門 報告Ⅲ(中野達也) 高校1年生221名・約半年
総合 337.62→356.91点(600点満点) 同上 同上
語彙は p=.216 で有意差なし 同上 同上
年間 中2約3万語/中3約6万語 第18回「英検」研究助成 A研究部門 報告Ⅵ(佐藤知代) 中学2・3年生の選択授業

確認しておく点は3つです。1つ目は、ここに挙げた3本のうち、多読をしない統制群を置いた研究は1本もないこと。上がった数字が多読だけによるものだと言い切れる設計にはなっていません。

2つ目は、指標によって結果が割れていることです。同じ集団・同じ期間でも、文法はt=-13.52で大きく動き、語彙はp=.216で動きませんでした。「どの数字が上がったか」を指標ごとに見る必要があります。

3つ目は、読解速度の数字は測り方に強く依存することです。高専の調査はストップウォッチで実測した生の秒数から、白鷗高校の報告はGTECの計算式を使った換算値から出しており、両者の wpm を直接比べることはできません。研究どうしを比較するときは、まず測定方法の記述を確認するのが安全です。

本記事に記載した論文・報告書は、いずれも2026年9月16日にJ-STAGEおよび公益財団法人 日本英語検定協会の公式サイトでPDFを取得し、表に印刷された数値をそのまま転記しています。原典にあたる場合は、中部地区英語教育学会紀要 第46巻および「英検」研究助成報告 第18回・第26回を参照してください。

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