文部科学省が公表した令和8年度予算(案)で、学校の英語そのものに名前が付いている事業「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業」の金額は2億円です。同じ年度の文部科学省の一般会計は5兆8,809億円なので、事業単体としては全体のごく一部にあたります。
この記事は、文部科学省が公表している令和8年度予算(案)・令和8年度概算要求・令和6年度「英語教育実施状況調査」と、JETプログラムの運営側が公表している参加者数を並べ直したものです。数字は2026年9月16日に各公式サイトのPDFで確認しました。国の予算は「当初予算」「補正予算」「概算要求」で金額がまったく違うため、この記事ではどの区分の数字かを毎回添えています。
英語教育に国はいくら使っているのか|令和8年度予算案の数字
最初に、いちばん探されている数字を置きます。文部科学省「令和8年度予算(案)のポイント」(2026年1月15日公表)に、英語という語がそのまま付いた事業が2つ載っています。
| 事業名 | 令和8年度予算額(案) | 令和7年度予算額 | 令和7年度補正予算額 |
|---|---|---|---|
| 小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業 | 2億円 | 2億円 | 4億円 |
| 学習者用デジタル教科書の導入(英語・算数・数学) | 17億円 | 17億円 | 2億円 |
当初予算だけを見ると2億円、令和7年度の補正予算4億円を足すと合計6億円という並びになります。デジタル教科書の17億円は英語と算数・数学の合算なので、英語だけの金額ではありません。
英語の授業を支えている支出は、①名前に英語が付いた事業、②教職員の給与にあたる義務教育費国庫負担金、③教材費、④自治体が自前で出しているALTの人件費、に分かれています。国の予算書で「英語教育」と名付けて集計された1本の金額は存在しません。
英語教育の予算が置かれている場所|文部科学省予算全体の中の位置
2億円という数字だけ見ても大きさが分かりません。同じPDFに載っている令和8年度予算(案)の全体像を並べます。
| 区分 | 令和7年度 | 令和8年度(案) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 一般会計 | 55,094億円 | 58,809億円 | +3,715億円(+6.7%) |
| エネルギー対策特別会計 | 1,084億円 | 1,087億円 | +3億円(+0.3%) |
| 文教関係予算 | 4兆2,282億円 | 4兆5,981億円 | +3,699億円 |
一般会計5兆8,809億円の内訳では、義務教育費国庫負担金が1兆7,118億円で29.1%、国立大学法人運営費交付金が1兆971億円で18.7%、科学技術予算が9,863億円で16.8%、高校生等への修学支援が6,174億円で10.5%を占めます。英語教育強化事業の2億円は、この円グラフでは項目として姿が見えない規模です。
なお文部科学省関係の令和7年度補正予算は総額1兆6,091億円で、うち文教関係が8,887億円です。近年は当初予算と補正予算をセットで読まないと事業の規模が分からない形になっています。
英語教育強化事業の内訳|令和8年度予算案で何に配るか
令和8年度予算(案)の資料に載っている、英語教育強化事業の内側です。事業の実施期間は令和3年度からと明記されています。
| メニュー | 令和8年度(案) | 令和7年度 | 中身 |
|---|---|---|---|
| AIを活用したグローバル人材育成のための英語教育強化事業 | 令和7年度補正予算(4億円)で実施 | 0.3億円 | AIを英語の授業等で活用するモデル構築、事例の収集と発信 |
| 専門機関等による専門人材育成・確保事業 | 0.1億円 | 0.1億円 | JETで来日したALTの研修、英語以外の外国語の指導者養成。3箇所×100〜500万円 |
| 学習指導要領に対応した外国語教育の条件整備・情報発信事業 | 1.5億円 | 1.4億円 | 小学校外国語活動教材「Let’s Try!」の配布ほか |
2億円のうち1.5億円は教材の配布と条件整備で、AI活用の部分は令和7年度補正予算に移っています。委託先は都道府県・市町村教育委員会、学校法人、国立大学法人などです。
英語教育の予算は概算要求から予算案でどう動いたか
国の予算は、各省庁が8月に出す「概算要求」と、12月から1月に固まる「予算(案)」で金額が変わります。英語教育強化事業はその差が分かりやすい例です。
| 段階 | 公表日 | 英語教育強化事業 | デジタル教科書 |
|---|---|---|---|
| 令和8年度 概算要求 | 2025年8月26日 | 7億円 | 20億円 |
| 令和8年度 予算(案) | 2026年1月15日 | 2億円 | 17億円 |
概算要求の段階では、AI活用のメニューを4.7億円(前年度0.3億円)、教師の英語力・指導力の向上のためのオンライン研修を0.4億円、条件整備を1.5億円として、合計7億円を求めていました。予算案では当初予算が2億円に戻り、AI活用分は令和7年度補正予算4億円という形で確保されています。ニュースで見かける金額が食い違うのは、どの段階の数字を引いたかの違いであることが多いです。
同じ事業には前年にも補正が付いており、令和8年度概算要求の資料には「令和6年度補正予算 6億円」と記載されています。当初予算だけを時系列に並べると実態を読み違えます。
英語教育のデジタル教科書に出ている予算
英語に直接ひもづく金額としては、こちらのほうが大きくなっています。令和6年度から、小学校5年生〜中学校3年生を対象に英語のデジタル教科書が先行して導入されました。
| メニュー | 令和8年度(案) | 令和7年度 |
|---|---|---|
| 学習者用デジタル教科書購入費(英語+算数・数学) | 1,529百万円 | 1,545百万円 |
| 活用状況等に関する実証研究事業 | 168百万円 | 127百万円 |
| デジタル形態を含む教科書の標準仕様等に関する調査事業 | 189百万円(令和7年度補正・新規) | ― |
購入費のうち、英語は全ての小・中学校等(特別支援学校小学部・中学部、特別支援学級を含む)を対象に提供され、算数・数学は一部の学校が対象です。英語だけが全校配布になっている点が、この予算の特徴です。対象は国・公・私立の小学校5・6年生と中学校全学年と記載されています。
なお同じ資料には、デジタル教科書を実践的に活用している教師の割合が令和6年度時点で約6割という数字も載っています。
英語教育を担う教師の予算|英語専科教員3,000人の加配
授業をする人に出ているお金は、事業費ではなく教職員定数の側にあります。令和8年度予算(案)の義務教育費国庫負担金は1兆7,118億円(令和7年度は1兆6,210億円)です。
英語教育強化事業の資料には「連携施策」として英語専科教員の加配措置(3,000人)が明記されています。小学校での英語の早期化・教科化に伴う専科指導のための配置です。これに加えて、外国語を含む小学校の教科担任制を進めるための加配も行われると書かれています。
| 項目 | 令和8年度(案) | 備考 |
|---|---|---|
| 義務教育費国庫負担金 | 1兆7,118億円 | 令和7年度は1兆6,210億円 |
| 新たな「定数改善計画」(令和8〜10年度) | 7,596人 | 3年間の改善総数は24,605人 |
| 小学校教科担任制の計画的な推進 | 990人 | 3年間で3,960人 |
| 英語専科教員の加配措置 | 3,000人 | 英語教育強化事業の連携施策として記載 |
英語教育を支えるALTの予算|JETプログラムの人数
ALT(外国語指導助手)の招致は総務省・外務省・文部科学省と自治体国際化協会が関わるJETプログラムが代表的です。人件費の多くは自治体側で負担されるため文部科学省の事業費には現れませんが、人数は運営側が毎年公表しています。
| 区分 | 人数(2026年度) |
|---|---|
| ALT(外国語指導助手) | 5,238人 |
| CIR(国際交流員) | 481人 |
| SEA(スポーツ国際交流員) | 15人 |
| 合計 | 5,734人(53か国) |
1987年の開始時は4か国848人でした。文部科学省側でALTに直接付いている予算は、英語教育強化事業のうち「専門機関等による専門人材育成・確保事業」0.1億円に含まれる研修費で、招致そのものの費用ではありません。
英語教育の予算が目標にしている数字|第4期教育振興基本計画
予算書には「長期アウトカム(成果目標)」が併記されています。根拠は令和5年6月16日に閣議決定された第4期教育振興基本計画です。
| 指標 | 令和6年度の実績 | 令和9年度の目標 |
|---|---|---|
| 中学3年生でCEFR A1(英検3級程度)以上 | 52.4% | 60% |
| 高校3年生でCEFR A2(英検準2級程度)以上 | 51.6% | 60% |
| 高校3年生でCEFR B1(英検2級程度)以上 | 21.2% | 30% |
| 全都道府県・政令指定都市で上記A1・A2が5割以上 | 未達あり | 全自治体で達成 |
2億円の事業が背負っている目標は、この3つの割合を令和9年度までに引き上げることだと予算書に書かれています。金額の大小を語るときは、この目標とセットで見るのが資料の読み方に沿っています。
英語教育の現状の数字|令和6年度英語教育実施状況調査
目標に対する現在地は、文部科学省が毎年公表している「英語教育実施状況調査」に出ています。令和6年度調査の基準日は令和6年12月1日、対象は公立中学校9,130校と高等学校3,241校(3,968学科)です。
| 項目 | 平成25年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|---|
| 中3 CEFR A1以上(生徒) | 32.2% | 50.0% | 52.4% |
| 高3 CEFR A2以上(生徒) | 31.0% | 50.6% | 51.6% |
| 高3 CEFR B1以上(生徒) | ― | 19.8% | 21.2% |
| 中学校教師 CEFR B2以上 | 27.9% | 44.8% | 46.2% |
| 高校教師 CEFR B2以上 | 52.7% | 80.7% | 82.2% |
| 高校教師 CEFR C1以上 | ― | 21.8% | 23.5% |
生徒も教師も割合は平成25年度から一貫して上がっていますが、令和9年度の目標にはまだ届いていません。ここでいう教師は、中学校・高等学校に所属し外国語(英語)の免許状を持ち英語の授業を担当している者(臨時的任用と非常勤講師を除く)と定義されています。
英語教育と留学・国際交流の予算
英語を使う機会に関わる予算は、留学・国際交流のくくりに入っています。令和8年度予算(案)では「日本人学生の海外派遣、外国人留学生の受入れ・定着、教育の国際化の推進」が732億円(令和7年度734億円、令和7年度補正575億円)です。
| 事業 | 令和8年度(案) | 令和7年度 |
|---|---|---|
| 大学等の海外留学支援制度 | 97億円 | 96億円 |
| 外国人留学生奨学金制度 | 217億円 | 219億円 |
| 在外教育施設の戦略的な機能の強化 | 192億円 | 191億円 |
| 大学の世界展開力強化事業 | 14億円 | 15億円 |
| 初等中等教育段階からの国際交流促進事業 | 1.4億円 | 1.5億円 |
初等中等教育局の資料には、国費高校生留学促進事業として104,846千円、支援金額は1人あたり6万円、対象人数は1,700人と書かれています。高校生の海外派遣に国が直接出す額は1人6万円という水準です。第4期教育振興基本計画では、2033年までに日本人高校生の海外留学生数を12万人、高校段階での外国人留学生数を2万人とする指標が定められています。
英語教育の予算を割り算してみる|編集部の概算
ここからは公表値どうしを割った編集部の概算です。四捨五入しているため、公式の数字ではありません。
| 計算 | 結果 | 使った公表値 |
|---|---|---|
| 英語教育強化事業 ÷ 文教関係予算 | 約0.004% | 2億円 ÷ 4兆5,981億円 |
| 英語教育強化事業 ÷ 調査対象の公立中高 | 1校あたり約1.6万円 | 2億円 ÷ 12,371校 |
| デジタル教科書購入費 ÷ 文教関係予算 | 約0.03% | 1,529百万円 ÷ 4兆5,981億円 |
1校あたり約1.6万円という数字は、実際に学校へ配られる金額ではありません。この事業は委託方式で、令和8年度概算要求の資料では委託先を22箇所程度としています。つまり全校にばらまく補助金ではなく、モデルを作って横展開するための事業費です。割り算はあくまで規模感の目安として置いています。
英語教育の予算の数字を読むときに外せない4つの注意
同じ「英語教育の予算」でも、資料によって桁が変わります。読み違えを避けるための4点です。
- 当初予算・補正予算・概算要求のどれかを必ず確かめる(英語教育強化事業は令和8年度で2億円・4億円・7億円の3通りが存在する)
- 英語の授業を支える最大の支出は教職員の給与で、これは義務教育費国庫負担金1兆7,118億円の中にあり、英語分だけを切り出した公表値はない
- ALTの人件費は自治体負担が中心で、文部科学省の事業費には現れない
- デジタル教科書の17億円は英語と算数・数学の合算で、英語単独の金額ではない
「国は英語教育に◯億円しか使っていない」という言い方は、①の区分と②の存在を落とすと成り立ってしまいます。逆に「◯兆円」と言う場合も、教職員給与全体を英語教育の予算と呼んでいないか確認が要ります。
この記事の金額は、文部科学省「令和8年度予算(案)のポイント」「令和8年度予算(案)主要事項【初等中等教育局】」「令和8年度概算要求のポイント」、および文部科学省「令和6年度『英語教育実施状況調査』(概要)」から取りました。ALTの人数はJETプログラムの運営側が公表している参加者数です。いずれも2026年9月16日に確認しています。
英語教育の予算で最後に確認しておくこと
最後に、この記事で並べた数字を短くまとめます。
| 知りたいこと | 公表されている数字 | 年度・区分 |
|---|---|---|
| 英語という名前が付いた事業費 | 2億円 | 令和8年度 当初予算(案) |
| 同事業に付いた補正 | 4億円 | 令和7年度 補正予算 |
| 英語のデジタル教科書を含む配布 | 17億円 | 令和8年度 当初予算(案) |
| 文部科学省の一般会計 | 58,809億円 | 令和8年度 当初予算(案) |
| 英語専科教員の加配 | 3,000人 | 令和8年度 連携施策 |
| JETプログラムのALT | 5,238人 | 2026年度 |
| 中3のCEFR A1以上 | 52.4%(目標60%) | 令和6年度調査/令和9年度目標 |
押さえるべき点は3つです。英語という名称が付いた当初予算は2億円規模にとどまること、実際の支出の主役は教職員定数と教材配布であること、そして数字は当初・補正・概算要求で最大3倍以上ぶれること。この3つを分けて読めば、報道で見かける金額の食い違いはほとんど説明が付きます。
金額は年度ごとに変わります。最新の数字は文部科学省が公表する各年度の予算資料で確認してください。この記事の数値は2026年9月16日時点で公表されていたものです。

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